2013年11月から約半年間、ISSの「きぼう」船内実験室において、JAXAと北海道大学は宇宙の微重力環境で氷の結晶がどのように成長するかを観察する実験を行いました。この実験によって、寒冷環境に住む動物体内の水が凍らないしくみが明らかになろうとしています。

結晶成長
図1 左から右へと氷の結晶が成長していく様子。氷の結晶が成長していく過程は非常に複雑で、それゆえに世にも美しい形状を作り上げることが知られている。Image Credit: JAXA

 氷点下の環境に住む魚が凍結せずに生きられるしくみの謎を解き明かすためには、”不凍糖タンパク質”と呼ばれるタンパク質が大きな鍵を握っています。今回の実験から、不凍糖タンパク質を含んだ水はある特定の方向に対して純水の3~5倍の速さで結晶が成長することが分かりました。「結晶の成長を速くする」と聞くと一見、水の凍結を促進しているように思えるかもしれません。しかし、ある一点に向かう方向に結晶成長を押し進めることで氷の結晶を小さく収め、結果的に凍結を抑制しているのです。

結晶成長 模式図
図2 不凍糖タンパク質を含む水中で氷の結晶が成長する速さを表した図。矢印の方向が異なる3種類の面は成長する速度がそれぞれ異なり、不凍糖タンパク質の作用で氷の結晶が小さく収まるように調整される。Image Credit: JAXA

 今回のような実験を地上ではなく、あえて宇宙で行うことには大きな理由があります。氷の結晶が成長するのを観察するにあたって、外部からの刺激は天敵です。特に問題となる「対流」は熱を伝えるために起こる流体の流れであり、地上の重力が原因で起こる現象です。このような理由から、微重力下で実験を行うことで、より精密な結果を得られるのです。
 今後、凍結を防ぐ働きを持つタンパク質のメカニズムが解明されることによって様々な分野への活用が期待されています。まず、寒冷環境に住む動物がいかに寒さに負けず生き残るか、その戦略を解明するための第一歩となります。また、食品分野や医療分野においても、冷凍食品の品質や臓器移植における臓器などの保存に利用できると考えられています。
 宇宙から私たちの生活へ。遠い存在に思える宇宙が身近に感じられる仕事の一例として、これからいっそう注目が集まるトピックとなるでしょう。