宇宙食について その10:宇宙食の歴史って?

 宇宙開発の歴史を彩った数々のスペースシップ。その移り変わりと共に、宇宙食の形態も進化してきました。

 

 有人宇宙開発黎明期の1962~1963年、マーキュリーの時代にはチューブに入ったクリーム状やゼリー状の離乳食のようなものと、ゼラチンでコーティングされた一口サイズの固形スナックが宇宙食でした。チューブ式の宇宙食には、ビーフグレービーや野菜ペースト、アップルソースなどが入っていましたが、その食感と食べ方が宇宙飛行士に不評でした。また、1日に必要な2800kcalを摂取するのに1日2kgもの量を食べなくてはなりませんでした。

 

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宇宙開発黎明期のマーキューリージ時代のチューブ状の宇宙食

© NASA

 1963~1968年のジェミニの時代には、一口サイズの宇宙食の他、中程度の水分を含んだものや乾燥食品が登場し、不評だったチューブ式の宇宙食は姿を消しました。牛肉、イチゴシリアルキューブ、ビーフサンドなどがパッキングされ、それを開封するためのハサミや乾燥食品に水を加えるためのウォーターガンが携行されました。

 

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ウォーターガンの登場したジェミニ時代の宇宙食

© JAXA

 

 1969~1972年のかの有名なアポロの時代には、宇宙食の種類も大幅に増え、お湯が使えるようになったことで、お湯で戻した食品をスプーンですくって食べられるようになりました。地上での自然な食事スタイルに少し近づきました。また、一日分のカロリーを摂取するのに食べなくてはならない量は600gに軽量化され、マーキュリー時代の1/3になりました。

 

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加水食品が登場したアポロ時代の宇宙食

© NASA

1973~74年のスカイラブの時代には加水食品に加えて、レトルト食品、自然のままの食品、調理済みの冷凍食品など、より地上の食品に近いものが登場しました。容器はフタつきのアルミ缶になり、加熱用のトレーにセットして、温めてから食べました。冷凍庫や冷蔵庫も設置され、ダイニングテーブルナイフやフォークやスプーンも使えるようになり、食事スタイルもより地上のスタイルに近づきました。この時代は生医学実験が行われたため、食事内容や食事環境はかなり改善されました。

 

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加熱用トレーの登場したスカイラブ時代の宇宙食

© JAXA

スペースシャトル以降、現在のソユーズに至るまで、現在の宇宙食は更にバラエティ豊かになり、更に地上の食事に近いものとなりました。スペースシャトルで食べられた宇宙食はプラスチックの容器に入っており、水やお湯を加えて戻したり、オーブンで温めたりして食べられました。NASAの宇宙食は、スペースシャトル内での短期ミッション用と国際宇宙ステーション内での長期ミッション用にそれぞれ180種類以上のメニューがあります。ロシアの宇宙食はボルシチなどの郷土料理も含めて100種類以上のメニューがありますが、ロシアの宇宙食は缶詰が多いです。半乾燥食品、加水食品、レトルト食品、自然形態食品、フリーズドライ食品、そして新鮮食品。こうして、最初のトピック「I. 宇宙食の形態」で紹介した宇宙食の形態が出揃いました。

 

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近年引退したスペースシャトルや現役のソユーズで食べられる宇宙食

© JAXA

 

宇宙食について その9:水はどうするの?

 国際宇宙ステーションでは、2008年11月に人間が排出した尿を飲料水にする装置が設置され、2009年5月から実際に使用されています。装置のデビュー時は若田光一宇宙飛行士を含む当時のクルーが、その装置を使って再生した水で乾杯をしました。 宇宙では水の補給が困難なため、そのような装置が必要となっており、仕組みとしては尿を遠心分離後に過熱して再生するようになっています。尿の完全再利用の技術は、宇宙で長期間滞在するためには必須の技術です。

 

 宇宙の無重力の中で人間が長期間滞在していると、骨の密度が下がり骨粗鬆症になります。成人の場合、宇宙の無重力の中では1日で250グラムのカルシウムが余分に尿に排出され、骨量は1ヶ月で約1%ずつ減ることになります。カルシウムが余分に排出されることで、人間の尿道結石という病気と同様に、尿再生装置でも同じ状態が起こり装置が詰まるトラブルが発生しています。この点を解決する装置の開発が今後の課題のようです。

 

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宇宙船で尿を飲料水に再生する装置

© JAXA

 2011年1月20日に、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられたH2Bロケットには、無人補給機「こうのとり」2号機が搭載されており、そこには国際宇宙ステーションで使用する飲料水が含まれました。打ち上げ後、宇宙飛行士がロボットアームを遠隔操作して、こうのとりを国際宇宙ステーションにドッキングさせます。輸送物資の総計5.3t中、飲料水の量は80kg。その他には食料、生活用品、日本実験棟で使用する機器が含まれていました。この飲料水は種子島宇宙センターの水道水を精製・殺菌したものになります。物資補給後は物資が入っていた空きスペースに廃棄物を搭載し、3月末には分離して大気圏に突入させました。これにより廃棄物はこうのとりごと燃え尽きました。

 

 地球の場合、汚れた水は下水に流しますが、下水は宇宙ステーションにはありません。水洗トイレでもないため流すこともできません。水は貴重なため再利用した水は飲料のみに使われ、宇宙ステーションで洗濯もしません。最新式のろ過装置を通してできたきれいな水をつくる高度なリサイクル技術は、大災害のときの飲み水の確保に活用できると期待されています。また、 水は酸素をつくるもとにもなることから、人間が生きてゆくために欠かすことができない、酸素を作り出す技術も開発されています。人間が宇宙に住むためには、宇宙空間に人類の故郷である「地球」をつくらなければなりません。国際宇宙ステーションは、言わば地球を回っている「小さな地球」というわけです。

 

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国際宇宙ステーションに食料等の物資を輸送する様子

© JAXA

宇宙食について その8:ゴミの捨て方って?

 宇宙船内でゴミが発生したとき、宇宙空間にポイ捨てするわけにはいきません。万が一人工衛星にぶつかったら、致命的な打撃を与えることになります。人工衛星を危険にさらす様なゴミは「スペースデブリ」と呼ばれ、現在大きな問題となっています。

 

 宇宙船内での食事の際に発生した包装材や容器などのゴミは、宇宙に捨てることができないので地球に持ち帰って捨てています。地上の私たちは、紙、スチール・アルミ、プラスチック、生ゴミなどゴミを分別して再利用していますが、宇宙では再利用のシステムができていないので全て地球に持ち帰ることになります。旅先や遠足先で出たゴミは持ち帰って捨てるのと同じですね。

 

 国際宇宙ステーションで出たゴミは、一纏めにして焼却しています。地球からやってきた補給船は、宇宙ステーションに荷物を降ろすと空っぽになるのでそこにゴミを詰め込んで、一杯になったら補給船ごと大気圏に突入させ、燃やし尽くします。地球の大気圏という焼却炉で安全に処分しているのです。日本が打ち上げたHTVも宇宙ステーションへ荷物を運び、最後は、国際宇宙ステーションで出たゴミといっしょに燃やすことになっています。

 

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宇宙での生活ゴミを大気圏突入させて燃やすイメージ

© JAXA

 

宇宙食について その7:開発時の注意点って?

 宇宙食を開発するときに、気を付けなくてはならないことがあります。まず、食品が粉末状であったり、噛んだときに粉が出るようなものは避けなければなりません。理由としては、宇宙空間は無重力なので、粉が飛び散ると際限なく空間をふわふわ漂います。それが、精密機器に入り込んだりすると、命の危険を伴う大事故に発展する可能性があるからです。粉が出やすいものは一口サイズのキューブ状に成形され、スープや調味料も粘り気を持たせたり液化して飛び散らないように工夫されています。液体もそのまま飛び出てしまうようなパッケージでは困りますから、密閉された状態でストローで吸って飲むことができるものが持ち込まれます。

 

 次に、宇宙船や国際宇宙ステーションは窓が開けられないので、火を使う調理法は船内の酸素を消費し、また火災を招く危険性があるのでNGです。従って、お湯をつくる機器や加熱用の調理トレーなど、火を使わない専用の道具が持ち込まれます。お湯をつくる際も、火傷の危険性を避けるため、100℃までは沸騰させず、70~80℃のお湯をつくります。食品や容器も難燃性のもの、万が一燃えても無害なものが持ち込まれます。密閉の空間での食事である以上、強いニオイを放つ食品も避けなければなりません。

 

 加えて、宇宙飛行士が宇宙空間に長期滞在するときは、栄養不足や食中毒などで病気になっても、すぐに病院に行くことができませんから、健康面でも衛生面でも充分に考慮しなくてはなりません。新鮮なビタミンを補うために、定期的に野菜や果物などの生鮮食品が地球から補給されるようになっています。また、冷蔵庫や冷凍庫が無い環境でも長期間食品の品質を損なわずに保存できるように、乾燥状態の食品が持ち込まれ、調理済みの食品はレトルトパックや缶詰で密閉されて持ち込まれます。これらの食品は、常温で1年間保存後も食べられるようになっています。

 

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宇宙船クルーとの宇宙食晩餐会

© JAXA/NASA

宇宙食について その6:宇宙食ができるまで

 国際宇宙ステーションでの長期滞在中、日夜たくさんの業務に追われ、体力と精神力を消費している宇宙飛行士にとって、一日の中で食事が一番の楽しみと言えるでしょう。現在国際宇宙ステーションでは、1日3回の食事と1回のおやつを食べることになっています。そこで食べられる宇宙食は、NASAのジョンソン宇宙センターのフードラボで必ず審査を受けますが、ここの検査をパスできる食品であれば、宇宙飛行士は自分好みの食品を宇宙に持っていけることになります。そこで宇宙飛行士は、ミッションで宇宙に飛び立つかなり前の段階から試食会を行い、自分が宇宙で食べたい食品をメニューリストから選択し、栄養学的評価を経てメニューを決定します。この一連の流れは、ただ食品を選定するだけでなく、宇宙で食べる食品に慣れておく意味でも重要で、最終的な個人メニューができるまでは何ヶ月も要します。こうして栄養バランスを考慮した上で、宇宙飛行士の趣味嗜好を反映したメニューが完成するわけです。

 

 1回の食事の内容は、前述の通り複数の食品で構成されています。一品ものにせずに、各品目の量を抑えて多くの種類の食品を食べることにより、全体として栄養バランスがとれるようになっています。国際宇宙ステーション開始当初は6日ごとにメニューを繰り返していましたが、その後そのサイクルは8日ごとになり、Expedition 8からは10日ごとになっています。短期間でメニューが繰り返されると飽きるという宇宙飛行士の意見がありますが、今後更に宇宙食メニューが増えればそのサイクルは延び、その問題は改善されていくと思われます。

 

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宇宙食記者発表会の記念写真の様子

© 朝日インタラクティブ株式会社

宇宙食について その5:どうやって宇宙食は食べるの?

 半年近くも宇宙の閉鎖空間で生活する宇宙飛行士にとって、宇宙食を楽しむ時間は、仕事の合間のとても大切な一息です。食事は仲間のクルーと一緒にとり、食事を通じて同僚とも会話が弾み、良い一体感が生まれます。

 

 食べ方についてですが、フリーズドライ食品は、付属のアダプターから水を加え、手で揉んで調理してからハサミで上面を開封し、上からスプーンですくって食べます。加水の量や待ち時間は食品ごとに異なりますが、ラベルに記載されている通りに作れば良い様になっています。

 

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野口宇宙飛行士の宇宙食の食事風景

© NASA / JAXA

 

 ドリンクは軽量化を図るために専用容器に密閉された粉末の状態で宇宙に持っていき、水を加えて作ります。飲むときにはクリップ付きのストローを装着します。クリップを閉じれば中のドリンクが飛び出さない仕組みとなっています。水そのものを飲むときは、「ギャレー」と呼ばれる貯水槽まで空のボトルを持っていき、そこから給水して飲みます。

 

 国際宇宙ステーションに補給船が来れば、野菜やフルーツやパンなどの生鮮食品を食べることができます。これらはそのまま食べることができ、加工もしていないので味も地上のままのため、補給船の到着は宇宙飛行士にとっては嬉しい瞬間となっています。

 

 調味料は地上と同様のものが揃っていますが、塩や胡椒などの粉末状のものは飛び散らないように液体にしてあります。マヨネーズやマスタードはそのままですが、液化した塩や胡椒は地上では中々お目にかかれない珍しい調味料です。

 

 国際宇宙ステーションに持ち込まれる際、ドリンクは粉末、調味料は液体・半固体状・ペースト状で持ち込まれ、ドリンクの粉末は食事の際に水に溶かされて液体に変わります。

 

 食事に使うトレーは、無重力で食事がふわふわ漂わないように、マジックテープで宇宙食を固定できるようになっています。缶詰などの食品は加熱用の調理台としての機能を備えたトレーにセットして食べます。

 

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宇宙でドリンクを飲む時のストロー付きパッケージ

© JAXA/NASA

 

宇宙食について その4:宇宙食の優等生って?

栄養価の高い食品として注目されている食品を列挙すると、まず「いちじく」が挙がります。生のいちじくは85パーセントが水分で、ビタミン、ミネラル、食物繊維をバランス良く含みます。乾燥いちじくは、成分が濃縮されるため、カリウム・食物繊維・銅を特に多く含む健康的なドライフルーツです。

 

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栄養価の高いドライいちじく

© Ishikawa Hirochin

 

 また、ネイティブ・アメリカンの常食である「ピーカンナッツ」も宇宙食の優等生でしょう。クルミ科でスチュアート、ディザイアブル、シュライなど50を越える種類があり、種子の中の胚乳をローストして食べます。生食は稀です。非常に脂肪分が高く「バターの木」とも呼ばれ、脂質以外にタンパク質、マグネシウム、鉄、ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、食物繊維、カリウム、ナトリウム、リン、βカロテン、ナイアシン、オレイン酸などを含み、非常に栄養価が高い食品となっています。ビタミンB1、B2の作用で自らの脂質の代謝を行うほか、カリウムでむくみを予防し、鉄分で貧血対策、オレイン酸でコレステロールを調整し、動脈硬化などの心疾患を予防します。主にアポロ計画において、フレッシュフードとして宇宙へ持ち込まれました。

 

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アポロにも持ち込まれたピーカンナッツ

© アメリカ大使館農作物貿易事務所

 

 変わり種として、「クロレラ」も優秀な食品として挙げられます。水中に棲息するクロレラを乾燥させて粒状にしたのが一般的なクロレラ製品です。クロレラにはタンパク質が約60%も含まれており、大豆や牛肉の数値と比べるとかなり優秀です。また、アミノ酸、ビタミン、鉄分、カルシウム、葉緑素、食物繊維を高濃度に含有しています。「アルカリ性食品の王様」としても知られるクロレラは、酸性体質を弱アルカリ性体質に変える働きによって生活習慣病を予防します。加えて、クロレラ成長因子CGFという生理活性物質が含まれ、生物の成長を促し細胞の新陳代謝を高めて若返らせる作用があると考えられています。さらには、重金属や化学物質を除去する解毒作用もあります。これらの点から、NASAで宇宙食として研究されていました。

 

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NASAが次世代宇宙食として注目するクロレラ

© 八重山殖産株式会社

 

 もっと先の未来に、人類が宇宙へ進出する時の宇宙食も考えてみましょう。ここで注目すべき食品に、「完全食」というものあります。完全食とは、それを摂取するだけで人間に必要な栄養素を満たせる食品のことです。この完全食には、「玄米」や「卵」が挙げられます。ただ、宇宙進出した人類の胃袋を支えるであろう最有力候補の食べ物は「さつまいも」と言われています。さつまいもにはタンパク質や脂肪が不足するため準完全食に該当し、それらは肉や魚などで補う必要がありますが、江戸時代に多くの人を飢饉から救ったさつまいもは宇宙での農作物として非常に優れた利点を持っています。まず環境への適応力が強く、土がなくとも水耕栽培が可能で、葉も茎も食べられるため廃棄処理が少なくて済みます。カロリーは100gあたり約123kcal。カルシウム、カリウム、食物繊維、ビタミンB群など非常に豊富な栄養素を兼ね備えています。特にビタミンCはイモ類の中での最も多く含まれており、ビタミンEも玄米の2倍含まれています。また、さつまいもを切ったときに出てくる白い液にはヤラピンという成分が含まれており、これは胃の粘膜を保護し、腸の蠕動運動を促進します。さらに食物繊維も豊富なため、便秘にも有効です。NASAは宇宙での自給自足の足がかりとして、宇宙環境に適した早期肥大性のさつまいもとその加工品の開発を進めています。

 

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宇宙で栽培可能になるかもしれないさつまいも

© J◇サプリ

 

 もうひとつの未来の宇宙食としては、かつてメキシコ中央高原に栄えたアステカ帝国で食用にされていた「スピルリナ」が挙げられます。スピルリナのタンパク質含有量は60~70%。必須アミノ酸を全て含んでおり、アミノ酸組成はクロレラを上回っています。ビタミンやミネラルが豊富で、特にβ-カロテン、ビタミンB12の含有量は非常に優れています。必須脂肪酸のγ―リノレン酸、葉緑素、核酸、酵素、食物繊維なども豊富に含み、世界で最も完璧な食品とも言える栄養バランスを誇ります。しかも、スピルリナは細胞壁が薄くて壊れやすいために消化率は95%以上で、クロレラに比べて有効成分の利用効率が非常に高いです。国連はスピルリナを未来の最も理想的な食糧資源として推奨しており、NASAもスピルリナを宇宙未来食として採用し、将来的に宇宙で栽培する事を検討しています。

 

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NASAが宇宙で栽培できる宇宙食として注目しているスピルリナ

© ホワイトナイト株式会社

 

宇宙食について その3:日本の宇宙食って?

2007年以降は、国際宇宙ステーション(国際宇宙ステーション)計画において計画参加国が独自に開発と認証をすることができるようになりました。日本ではJAXAが認証基準の制定と認証作業を行っています。2007年6月には第一回目の認証が行われ、「宇宙日本食」はどのミッションでも供給可能となり、逆に各国のバラエティ豊かな食事も楽しむことができるようになりました。

 

 一般食や特別食として外国人宇宙飛行士にも食されている宇宙日本食には、たこ焼きや赤飯、みそ汁などが挙げられます。変わり種としては、向井千秋宇宙飛行士がSTS-65ミッションに持ち込んだ「菜の花のピリ辛和え」などが挙げられます。

 

 特別食のは国内のみの審査で持ち込みが許可されますが、食品の性質によっては宇宙船打上国に却下される場合もあります。毛利衛宇宙飛行士は納豆を機内に持ち込もうとしましたが、臭いの点はクリアしたものの、糸を引く点が問題となり、NASAによって却下されました。 一方、噛んだ時に粉が飛び散ってしまいそうなせんべいなどは、若田光一宇宙飛行士が特別食として持ち込みの認可を得ており、スペースシャトル内で食べています。

 

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宇宙日本食のコンテストの入賞作品

 

 宇宙食に不適な食品の代表格であったラーメンは、日清食品中央研究所がカップヌードルをベーストした「スペース・ラム」という宇宙用インスタントラーメンを開発したことで持ち込みが許可されました。70℃のお湯で柔らかくなる円筒状の麺の塊が袋の中に3個入っており、これにお湯を注入し、所定の時間を置いてから袋を破って円筒状の麺をフォークや箸ですくって食べます。香辛料を強めに効かせた粘度の高いスープが添付されており、麺にまぶすことでカップヌードルに近い満足感を得ることができます。味付けは、醤油・味噌・豚骨・カレーの4種類が用意されており、野口聡一宇宙飛行士が実際に持ち込みました。加えて日清食品はそばも開発しており、こちらもスペース・ラムと同様に3個の麺の塊を低温のお湯で戻して食します。このかけそば「どん兵衛」と焼き鳥は宇宙日本食として土井隆雄宇宙飛行士が持ち込みました。

 

 それ以外の宇宙日本食としては、おかゆや日本式のカレー、サンマの蒲焼や緑茶などがあります。他国の飛行士にも人気が高いため、野口宇宙飛行士が国際宇宙ステーションに持ち込んだ宇宙日本食を、前任日本人クルーである若田光一宇宙飛行士の置きみやげと勘違いした外国人クルーが喜んで食べてしまうという珍事も起こっています。ただし宇宙食はもともと多めに持ち込まれ、輸送も頻繁に行われているため、ミッションに影響はなかったとのことです。

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宇宙で食べれる画期的ラーメン『スペース・ラム』

© 日清食品

 

 スペースシャトルのミッションでは、日本人クルーの好物が栄養維持やリフレッシュ用に特別メニューとして積み込まれました。これらは他国のクルーが消費する分も用意され、コミュニケーションの話題として活躍しています。宇宙日本食には和食以外に日本の家庭料理なども含まれ、下記の様な日本食が持ち込まれました。

毛利衛宇宙飛行士:白飯、赤飯、レトルトカレー、梅干、浮かし餅、羊かん、ほうじ茶、オニオンスープ

向井千秋宇宙飛行士:たこ焼き、肉じゃが、さけの南部焼き、菜の花ピリ辛あえ、五目炊き込みご飯

土井隆雄宇宙飛行士:日の丸弁当、天ぷらそば、焼き鳥、京風あんかけ五目うどん、お稲荷さん、白飯、白かゆ、たまごスープ、レトルト ポークカレー、シーフードラーメン、イワシのトマト煮、お好み焼き、カレーラーメン、しょうゆラーメン、スペースねぎま

若田光一宇宙飛行士:赤飯、山菜おこわ、ラーメン(醤油・シーフード・カレー)、おにぎり、草加せんべい、羊羹、わかめスープ、お吸い物、緑茶、ウーロン茶、トマトケチャップ

野口聡一宇宙飛行士:ラーメン、カレー

星出彰彦宇宙飛行士:お好み焼き、スペースねぎま

 

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若田宇宙飛行士が宇宙に持っていった宇宙食セット

© JAXA

 

 宇宙日本食の開発の波に乗った日本食品科学工学会と大日本印刷は、JAXAと協力して宇宙食用包材に適応したわかめスープを開発しています。このわかめスープは地上と同様の美味しさに加え、天然のミネラル分や食物繊維が豊富であり、宇宙長期滞在下での栄養摂取に大きく貢献します。宇宙食は宇宙飛行士の健康を維持するのに欠かせないアイテムです。無重力による骨量の減少と筋肉の退化を防ぐために、カルシウムとビタミンDが含まれた宇宙食が開発され、放射線による酸化反応の促進を防ぐために、ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化成分が含まれた宇宙食が開発されています。

 

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続々と開発される市販の宇宙日本食

宇宙食について その2:どんなメニューがあるの?

 宇宙食には、生存するための栄養補給という意義だけではなく、食べることでおいしいと思い、気持ちが和らぐといった精神心理的な意義、嗜好的な意義も含まれています。これらは宇宙飛行士のパフォーマンス向上のために重要視されます。各国から集まった宇宙飛行士の嗜好に合わせて、宇宙食のメニューは徐々に増えてきました。バランスが取れた美味しい食事は、宇宙飛行士の精力的な活動を支えます。

 例えば野口聡一宇宙飛行士が、ある一日に実際に食べたメニューは下記の通りです。

主食:カレーライス、ラーメン、トルティーヤ

主菜:照り焼きチキン、ビーフストロガノフ

デザート:タピオカプリン、乾燥洋梨、ホワイトチョコストロベリー

飲料:ココア、抹茶、レモンティー、パイナップルドリンク、オレンジマンゴードリンク

他に汁物としてお吸い物まであり、充実したメニューとなっています。

 

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日本でも市販されているスペースカレー

© Marketing Pro

 

 宇宙食は一般食と特別食に大きく分けることができます。一般食は、現在宇宙船の打ち上げを行っているアメリカ航空宇宙局およびロシア連邦宇宙局が開発しており、常設メニューとして基本的にどのミッションでも採用されています。開発国であるアメリカとロシアで一般に食されているものがメニューの大半を占めています。

 

 一方の特別食は、ミッションに参加する宇宙飛行士の希望から主に各国の宇宙局が開発し、搭乗予定の機関(国際宇宙ステーションの場合はNASAかロシアの審査が必要)の審査を受けた上で持ち込みが許可されるものです。特別食は、前述の食事によるリフレッシュという側面から搭載され、特にアメリカやロシアと食文化の違う国の宇宙飛行士が充分なリフレッシュを行えるようになっています。

 

 一般食は主に、アメリカはフリーズドライ、ロシアは缶詰の状態で、前述の宇宙食としての条件を満たす必要がありますが、特別食の場合は短期間の消費を前提とし、レトルトパウチ食品や単なる密封包装程度で搭載が可能となる場合が多いです。2007年以前の日本の宇宙食や、韓国が開発したキムチ・スジョングァ茶・韓国ラーメンなどの韓国料理は特別食です。

 

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加熱用トレーに入った宇宙食

© JAXA

宇宙食について その1:どんな種類があるの?

宇宙飛行士にとって、宇宙での食事は大切な栄養補給の時間であり、お楽しみの時間でもあります。ただし、私たちが普段この地上で食べている食事をそのまま持っていくわけにはいかないので、宇宙船や国際宇宙ステーションに持っていくことのできる宇宙食は独自の形態をしています。

 1960年代の宇宙食はアルミのチューブに入ったペースト状のものでしたが、それから半世紀以上が経過した現在、宇宙食は地上の食事により近く、バラエティ豊かに味も美味しく進化しました。NASAの宇宙食には宇宙船内の短期ミッション用と国際宇宙ステーション内の長期ミッション用でそれぞれ180種類以上の食品がメニューとして開発されています。

 宇宙食の形態はその食材に合わせて、主に下記の6形態に分類することができます。

(1)自然形態食品

(ナッツ、クッキー、キャンディー等)

(2)補給船が着いた直後に食べられる新鮮食品

(果物、野菜スティック、パン、トルティーヤ等)

(3)水やお湯で戻して食べる加水食品/凍結乾燥食品

(ソーセージパテ、スクランブルエッグ、シリアル、シュリンプカクテル、スープ、飲料等)

(4)そのまま温めて食べる温度安定化食品

(スモークターキー、ツナ、ハム、ソーセージ、フルーツ、プリン等のレトルト/缶詰)

(5)長期保存を可能にした放射線照射食品

(ビーフステーキ等)

(6)調味料

(ケチャップ、マヨネーズ、チリソース、タバスコ、液体塩、液体コショウ等)

 基本的には長期間の保存が効く(4)(5)、且つ軽量である(3)が推奨されます。食材や調理法に合わせて保存方法や梱包方法が異なるのは地上と同じですね。

 

 合計360種類以上のメニューが用意されているのは、骨粗鬆症など栄養の偏りで起こる深刻な健康上の問題に対応するためと、単調な宇宙生活中の数少ない楽しみにしてもらうためです。デザート等の娯楽要素も含めて、宇宙飛行士に極力地上に近い食生活をしてもらうことが非常に重要な気分転換となり、狭い船内でのストレス対策となります。

 

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多様な形態を持つ宇宙食

© NODE-LAB.ORG