facebooktwitterinstagram

bannar
メディア > 宇宙フリーマガジンTELSTAR > イベントレポート > 「医」を「宇宙」で。 〜SPACE MEDICINE WEBINAR WEEK 2020 DAY2 〜

「医」を「宇宙」で。 〜SPACE MEDICINE WEBINAR WEEK 2020 DAY2 〜

  • LINEで送る

はじめに

Space Medicine Japan Youth Community(以下、SMJYC)は宇宙医学に関心を持つ学生や若い世代が集い、各々の興味を深め、互いに学び合うコミュニティです。大阪医科大学、大阪大学、東京大学の医学生によって2017年に創設されて以来、宇宙医学について詳しく学べる様々な企画を行ってきました。初めは10人程度でしたが、メンバー数は増え続け、現在、全国で約220名が集まるコミュニティとなっています。

 

今回、SMJYCは、8月24日(月)から8月28日(金)にかけて第1回目の宇宙医学ウェビナーウィークを開催しました。計150名の方からの応募があり、5日間の述べ参加者は400名に及びました。このウェビナーでは、宇宙医学研究の最前線で活躍されている先生方に宇宙医学についてのお話をしていただきました。

 

そこで、ウェビナーに参加した6名の方がウェビナーで学んだことや感想について紹介していきます。

 

月の砂で病気を防ぐ!?ー宇宙放射線って聞いたことある?ー

山形大学医学部5年の紺野雄大です。

 

「宇宙医学ウェビナーウィーク2020夏」に参加し、宇宙医学の第一線で働く先生方からお話を聞き、たくさんのことを学びました!そこで学んだ内容を元に、今回は宇宙医学とは何か、どんなことを研究するのか、ということをちょっとだけ掘り下げてみようと思います。

 

宇宙に行くのに必要な学問を、皆さんはどれくらい知っていますか?

スペースXによる有人宇宙旅行の話など、民間人による宇宙旅行も随分身近なところで耳にするようになりました。
そう遠くない未来に、人間が月に移住するなんていう、まるでSFの世界のような世界がくるかもしれません。

 

しかし宇宙旅行と一口に言っても、実は有人宇宙飛行を実現するには、本当に数え切れないほどの学問が必要になってきます。

 

皆さんは宇宙旅行の実現に必要な学問をどれくらい知っていますか??

 

物理学工学天文学、医学、生物学、人文学...

 

いくつ挙げる事が出来たでしょうか??

 

実はこれらのうち一つでもかけてしまえば、安全な有人宇宙飛行は成し遂げられません。

 

今回はこんなにたくさんある学問の中でも、宇宙医学という学問について掘り下げていきます。宇宙医学といっても様々な分野があるのですが、今回は、特に宇宙放射線と人体の関係について考えていきます。

 

それにあたって、まずは、人は宇宙で健康に暮らせるの??という疑問について考えてみましょう。

 

宇宙で人は健康に暮らせるの?

これは、日本人である若田宇宙飛行士が宇宙から帰還したときの写真です。

 

宇宙からの帰還時に、地球の重力下歩く事が出来ずに数名に抱えられて運ばれている(Credit:NASA)

 

微小重力空間で長期間活動する事で筋肉量が減り、地球に帰ってきた時に歩いたり、手をあげたりすることができなくなってしまうのです。

 

それでは、宇宙に関わる人体への影響には他にどんなものがあるでしょうか。

 

宇宙酔い、骨粗鬆症、視力障害、白血病、がん、遺伝的影響...

 

このように、たくさんの影響が問題になってきますが、その原因として、微小重力と並んで問題となるのが、放射線です。実は、地上で普通に過ごしているだけでも、私たちは食物や大地、空気中などから身体に放射線を浴びています。

 

放射線の人体への影響(Credit:NASA)

 

放射線は、上の図のようにヒトのDNAを破壊し、白血病やがんなどの発症を促進してしまう恐れがあります。

 

実は宇宙空間では、宇宙放射線と呼ばれる高エネルギーの放射線が飛び交っており、その量は地上で浴びる放射線量の比ではありません。なんと、ISS滞在中の1日当たりの被ばく線量は、地上での約半年分に相当することになります。

 

放射線を浴びれば浴びるほど発症する白血病などのリスクが高くなるとも言われており、若い人ほどその影響が大きいと言われています。そのため、なおさら、放射線への対策は必須のものとなってくるのです。

 

宇宙放射線を防ぐには?

宇宙での被ばく線量計測とシミュレーション

 

わたしたちが地上で日常生活を送る中での被ばく線量は、1年間で約2.4ミリシーベルトと言われています。一方、ISS滞在中の宇宙飛行士の被ばく線量は1日当たり1ミリシーベルト程度です。

 

宇宙飛行士の被ばく線量は常時管理され、可能なかぎり低く抑えるよう管理されています。また、太陽の活動状態を監視し、太陽フレア(太陽における爆発現象で、宇宙放射線の発生源となる)が起こった時などには、宇宙船内の船壁の厚い場所に待避するなどの処置を取ります。

 

2010年5月から、平均的な成人男性を模した人体模型を「きぼう」船内に長期間設置して臓器の被ばく量を実測し、人体内の宇宙放射線被ばく影響を正確に評価するマトリョーシカ実験(https://iss.jaxa.jp/kiboexp/equipment/pm/padles/matryoshka/)が行われました。この時のデータをもとに実測できない人体深部の被ばく線量やリスク評価の計算精度を向上させる研究が行われています。また、事前に被ばく線量予測をする宇宙放射線シミュレーションコードの開発のための基礎データとしても利用されています。

 

線量計を組み込んだファントムと野口宇宙飛行士(Credit:JAXA/NASA)

 

地球には、大気があり磁場もあります。そのため、宇宙から降り注ぐ荷電粒子からコースをそらすことで宇宙放射線から地球を守っています。しかし、月では大気も磁場も存在しないため、地球に比べて放射線を受けやすくなります。そのため、 2020 年以降に 計画されている月面有人ミッションの際には、放射線防護が最重要課題の一つになると考えられています。

 

また、ISSなどの宇宙機内部では、船壁や搭載機器などに銀河宇宙線や太陽粒子線などの一次放射線が衝突し、陽子、中性子などの多数の二次粒子(二次放射線)を発生させます。

 

そのため、内部では複雑なエネルギー分布を示しています。そこで、線量が高い場所と低い場所を的確にシミュレーションで予測する事で、その遮蔽環境による被ばく低減の可能性などが示されています。

 

宇宙素材の可能性 

予測する技術の向上に伴い、新しい遮蔽材料の研究も進んでいます。

 

例えば、月の砂と呼ばれるレゴリスや、レゴリス成分と似た富士山の溶岩を用いて作る遮蔽材の研究などが行われています。その他にも、より放射線防護に効果があるのはどのような素材なのか、調査が世界中で行われています。

 

レゴリスでの足跡(Credit:NASA)

 

まとめ

ここまで、宇宙放射線とその防護に関して話してきました。このように、微小重力や放射線による身体への影響や、放射線をどのようにして予測・遮蔽するかなど、宇宙に関わる学問の発展には目を見張るものがあります。

 

また、話の中に、宇宙に進出する際に生じる困難を、レゴリスという宇宙ならではの方法で解決する、という話も出てきました。宇宙に進出する際に生じる困難を、宇宙ならではの方法で解決するという、なんとも夢のある話です。

 

今後宇宙への進出がさらに加速するに伴って、これらの研究の重要度はますます増してくるのではないでしょうか。

 

これからも宇宙開発は熱い展開が続きそうです。

 

(紺野雄大・嶌村美来・中夷黎)

  • LINEで送る

最新号はこちら!!

28号_表紙.png
詳しくは画像をクリック!