空を見上げるとどの星よりも輝いている星があります。
私たちの一番身近な星 月です。
今回はそんな月の神 アルテミスの恋物語をお話しします。
あるところにアルテミスという名の女神がいました。
父は「神々の王」であるゼウス、双子の兄は「太陽神」アポロンと大変エリートな家族に生まれました。
そして彼女もまた「月の神」と重要な役目を背負っていました。
そんな彼女には他にも名がありました。
「狩猟の神」です。
彼女は狩りの名人でした。
矢を放てば百発百中。
狩りの腕はピカイチ。
誰も右に出ることはできません。
「今日も大物を獲るのよ!」と意気込み、毎日森へ狩りに出かけました。
ある日、いつものように勇ましく矢を放ち空を飛ぶ大鷲を撃ち取ったとき、ある男に声をかけられました。
「君、女性なのになかなかやるね。僕と勝負しようよ。」
そう言ったのは、オリオンという名の狩人でした。
オリオンもまた狩人の名人で、その腕はアルテミスと互角に戦えるほどでした。
「何よ、生意気ね。」と思いつつ、オリオンの腕前を見てアルテミスは驚きました。
それから二人は毎日獲った獲物を見せ合い勝負を繰り返しました。
競い合ううちにいつしか二人は恋に落ちました。
その姿は、思いを伝えればいいのに!と見ている周りがもどかしくなるほど初々しい二人。
しかし、思いを伝えられない理由がアルテミスにはありました。
初めにお話ししたようにアルテミスには「月の神」「狩猟の神」の二つの名がありました。
実は、まだもう一つ名がありました。
それは「貞操の神」です。
つまりオリオンと、ましてやほかの男性とも一切の交際が許されないのです。
そうと分かっていてもこの気持ちを止められず、何度も思いを伝えようと試みました。
しかし思いを伝えられないまま月日が経っていきました。
そんな乙女なアルテミスを良く思っていない人がいました。
それは真面目な双子の兄アポロンです。
アポロンはうつつを抜かす妹に自分の役割をしっかりわからせるためにいたずらをしかけました。
月が昇りある晩の夜、アポロンはオリオンの家に忍び込み枕元に毒針を持つサソリを置いていきました。
朝、月が沈み日が昇り目が覚めたオリオンはサソリを見てびっくり。
慌てて海へ逃げました。
なぜ海かって?
それはオリオンの父は海の神ポセイドンだからです。
父のいる海に逃げればもうひと安心。
一方、今日も森へ来たアルテミスはいつもなら先に来て狩りを始めているオリオンがいないことを不思議に思いました。
そのうちやってくるだろうと思い狩りを始めましたが、いつまでたってもオリオンは来ません。
狩りをしていても頭の中はオリオンのことでいっぱい。
狩りも上手にできません。
と、後ろからアポロンが現れ
「恋にうつつなんか抜かしてるから狩りの腕が少し落ちたんじゃないか。」
と冷たい言葉をかけました。
それを聞いてムキになったアルテミスは
「そんなことないわ!私の狩りの腕はだれにも負けなどしないわ!」
と言いました。
それを聞き
「ならばあの海の上に光る太陽を射抜けるか?」
と問うアポロン。
「あ、当たり前じゃないの!見てなさいよ。」
と言いアルテミスは弓を引き狙いを定め矢を放ちました。
矢は海の上に光る太陽をめがけ一直線に飛び、見事命中しました。
アルテミスはどうよ!と言わんばかりの威張り顔をアポロンに向けたとき
あることに気が付き顔がどんどん青ざめていきました。
海の上で光っていた太陽がどんどん倒れてきます。
そしてやがて光がなくなってその姿が明らかになりました。
そう、海の上で光っていた太陽の正体はサソリから逃れるために海へと逃げ込んでいたオリオンだったのです。
太陽神アポロンはその力で太陽の光をあやつり、オリオンの頭へと動かしていたのです。
アルテミスは自らの手で愛する人を殺めてしまったのです。
悲鳴を上げながら泣きじゃくるアルテミス。
アポロンは静かにその場を去っていきました。
アルテミスは自分が犯したことを悔やんで悔やんで、愛するを思い三日三晩泣き続けました。
その姿をみた父ゼウスは、あまりにも娘がかわいそうだったのでオリオンを星座にして空へあげました。
そしてアルテミスが月の神として月へ仕事へ行くときはオリオン座の近くに行けるようにしました。
月の神アルテミスの悲しい恋物語…
いかがだったでしょうか。
実はこの時期、夜空を見上げるとそんなアルテミスとオリオンが空のデートをしています。
「愛しのオリオン、私はあなたになんてひどいことをしたのかしら。どうぞゆるしてください。
あの時言えなかったけど私ほんとにあなたのことが好きだったの。ああ、オリオン」
「アルテミス、もう泣かないでおくれ。こうして君にまた会えるから僕は大丈夫さ。
さあ、顔をあげて。楽しい夜空のデートをしようよ。」
なんてお話をしているのかもしれませんね。
今夜、あなたの愛する人とオリオン座とそのそばで輝く月をご覧になってみてはいかがでしょうか。
素敵なクリスマスを
*参考文献*
柴崎竜人(2013)『三軒茶屋星座館』講談社.