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「医」を「宇宙」で。 〜SPACE MEDICINE WEBINAR WEEK 2020 DAY5 〜

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はじめに

 

Space Medicine Japan Youth Community(以下、SMJYC)は宇宙医学に関心を持つ学生や若い世代が集い、各々の興味を深め、互いに学び合うコミュニティです。大阪医科大学、大阪大学、東京大学の医学生によって2017年に創設されて以来、宇宙医学について詳しく学べる様々な企画を行ってきました。初めは10人程度でしたが、メンバー数は増え続け、現在、全国で約220名が集まるコミュニティとなっています。

 

今回、SMJYCは、8月24日(月)から8月28日(金)にかけて第1回目の宇宙医学ウェビナーウィークを開催しました。計150名の方からの応募があり、5日間の述べ参加者は400名に及びました。このウェビナーでは、宇宙医学研究の最前線で活躍されている先生方に宇宙医学についてのお話をしていただきました。

 

そこで、ウェビナーに参加した6名の方がウェビナーで学んだことや感想について紹介していきます。

 

WEBINAR WEEK DAY 5

 

愛媛大学医学部医学科2回生の田村尚久です。「宇宙医学ウェビナーウィーク」の5日目では、航空自衛隊の航空医学実験隊に所属されている桒田成雄先生にご講義頂きました。この記事では航空医学について紹介させて頂きます。

 

航空医学と宇宙医学は、一見別物のように見えますが、宇宙空間で現在行われている医学研究は、航空医学の発展に基づいています。

 

この記事を通して、現在の宇宙医学の基礎である航空医学について知り、興味を持って頂けると嬉しいです。

 

 

credit:NASA

 

航空医学の活躍の場所

 

航空自衛隊は防衛省管轄である、日本の空を守る唯一の組織です。

 

昨今の通信技術の発展や、宇宙開発が各国で盛んに行われています。それらの動向を踏まえ、航空自衛隊が物理的な“空の警察”の役割に加えて、サイバー攻撃や電磁波、他国の人工衛星などから、私たち日本国民を日々守ってくれています。

 

航空自衛隊は様々な部隊で構成されていますが、特に航空医学と関わりの深い部隊が「航空医学実験隊」(埼玉県狭山市、東京都立川市)です。航空医学実験隊は主にパイロットの定期身体検査や、訓練におけるパイロットの健康状態のチェック、戦闘機に搭乗した際、パイロットの健康状態にどのような影響が出るのかを様々な方面から検証していくなど、パイロットが安全に任務を遂行できるようにサポートしています。

 

航空医学と起こりうるリスクへの対応策

 

航空医学はその名の通り、航空自衛隊や民間の航空会社に勤務するパイロットや乗客の健康を守る医療のことを指します。病院で皆さんが受けたことがあるような医療と決定的に違うことは、「医療を受ける人が健康な人間である」ということです。

 

航空自衛隊の任務においては、過酷な環境に身を置くため、健康上様々な問題が起こってしまうことがあります。それらをあらかじめ検証することで予防策を講じたり、症状に陥った際に対応法を用意したり、速やかに処置を行い事故を未然に防いだりと重要な役割が生まれてきます。

 

これから、戦闘機訓練や任務などの際にパイロットがどのような危険にさらされる恐れがあるのか、代表的なものをお話ししていきます。

 

 酸素が薄い(低酸素症)

 

パイロットの任務や訓練では酸素が薄くなります。酸素が薄くなると呼吸で酸素を取り入れることが難しくなってしまい、脳に酸素が十分に届かなくなってしまうので、判断能力や認知機能が落ちてしまい、事故の危険性が高くなってしまいます。

 

パイロットは必要に応じて酸素濃度を調節できる装置(レギュレータ)を用いて呼吸することでこれを予防していますが、それでも十分でない場合は訓練や任務を中止します。

 

また、低酸素症には、「自覚症状が乏しく、脳機能が急速に低下する」という危険な特徴があるので、航空自衛隊のパイロットは低圧室と呼ばれる装置での訓練を行い、低酸素症及び次項の気圧変化に対する意識を高めてフライトに臨む必要があります。

 

低圧室(Credit:航空医学実験隊)

 

気圧が急激に変化する

 

高いところへ行けば行くほど、気圧は下がります。その影響で、例えば開けていないポテトチップスを富士山の頂上へ持って行くと、気圧が低いために中の気体が膨張し袋がパンパンになるといった現象を知っている人もいるかもしれません。

 

人体でも同じ様に、胃や鼓膜の内側、虫歯がある人は銀歯と歯の間など、空気の“袋”のようなものがいくつか有ります。それらがゆっくり膨らんだり、萎んでいくのであればそれほど影響はありませんが、戦闘機は急速に高度を上昇させることにより“袋”が急に膨らんだり萎んだりするので、痛みや様々な症状につながることがあります。

 

予防策はそれぞれあって、例えば耳管であれば唾液を飲み込む、鼻をつまみ口を閉じていきむ(バルサルバ手技)、胃の空気であれば、上品ではないかもしれませんが、オナラやゲップなどで積極的にお腹の中のガスを排出する、歯はちゃんと治療してからフライトに臨む、など色々な対策があります。

 

加速度が急激に変化する

 

ジェットコースターに乗ってカーブすると下に押し付けられる力がかかるように、戦闘機が高速で旋回するときには、遠心力により、頭から足方向への加速度がかかります。戦闘機で加速度はジェットコースターよりもずっと大きく重力の8~9倍にも達し、意識消失や内出血を起こすことがあります。

 

対応策としては特殊な服(耐G服、ショックパンツのように腹部、下肢に圧力を加える)の着用、胸腔内圧を高める特殊な呼吸法(フック呼吸)を含む動作(耐G動作)を専用の訓練装置(遠心力発生装置)で訓練することがあります。

 

遠心力発生装置(Credit:航空医学実験隊)

 

錯覚

 

 錯覚は最も事故に陥りやすい要因のうちの一つです。パイロットは前後左右を縦横無尽に飛行するので、機器に頼らずに自分が水平に飛行しているのかどうかを判断することが極めて困難です。これを空間識失調と言います。

 

自分は動いていないが、景色が動いているために自分が動いているように感じることや、後ろ向きに前述の加速度による力が働いているために自分が傾いていることに気がつかないことなど様々あります。

 

航空自衛隊では、専用の装置を用いてパイロットにこの錯覚についてしっかり認識させ、普段の訓練で意識づけることで事故を防いでいます。

 

空間識訓練装置(Credit:航空医学実験隊)

 

おわりに

 

このようにパイロットが安全にフライトするために航空医学は活躍し、航空自衛隊を支えることで、今日も皆さんの暮らしを間接的に守っています。今回紹介できた事例はほんの一部でしたが、これらの部門以外にも日夜様々な研究が行われています。

 

そう遠くない未来に、訓練されたパイロットでなくても宇宙へ行くことができる時代が来ると言われていますが、航空医学の観点から見てもまだまだクリアすべき課題がたくさんあるように思います。

 

前述した時代が来るのであれば、宇宙医学は今まで以上に重要な役割を担うでしょう。その際に、宇宙医学のみならず、航空医学に対しても意欲的に学習することで、違う視点から問題解決のヒントを見つけることができるかもしれません。

 

(田村尚久・嶌村美来・中夷黎)

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