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[うちゅうけん!+]天文観測は南極で!-筑波大学宇宙観測研究室-

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みなさん、南極が宇宙の謎を解明するためにとても重要な場所である、ということを知っていましたか。筑波大学宇宙観測研究室では、国土地理院のつくば32m鏡やアルマ干渉計、野辺山45m鏡などの望遠鏡を用いて、銀河や遠方宇宙の観測、研究を行っています。その観測的研究の中で研究室が最も力を入れている研究が、「南極天文学」です。
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筑波大学宇宙観測研究室のみなさん

研究テーマ

それでは、「南極天文学」とはどういったものなのでしょうか。今回は南極天文学の開拓者である中井直正教授と研究室の学生に、お話を伺いました。

地上最高の天文観測地

研究室では、10m級のテラヘルツ望遠鏡を南極に設置する計画を進めています。テラヘルツ波とは周波数の高い電波で、大気中の水蒸気にすぐ吸収されてしまうため、地上にはほとんど届いていません。
一方、標高が高い南極では大気中の水蒸気が非常に少ないため、テラヘルツ波も大気に吸収されることなく地上に届きます。南極はテラヘルツ波を観測できる絶好の場所なのです。また同じ理由で、既にある電波望遠鏡で観測可能な電波についても、地上で最高条件の観測環境にあります。すなわち南極は、「地球上で最も天文観測に適している場所」ということができます。
ではなぜ、テラヘルツ波の観測が必要なのでしょうか。宇宙観測研究室では銀河の観測も行っていますが、一口に銀河といっても色々な種類が存在します。渦を巻いている円盤状のものや、楕円状のものなどです。なぜ銀河には色々な種類があるのか、形や性質が違うのか。それを知るためには、銀河がどのように生まれたのか、どのように大きくなったのかを調べる必要があります。そこで期待されるのが、テラヘルツ望遠鏡です。テラヘルツ望遠鏡は他の望遠鏡と比較してより遠方の宇宙観測を行うことができます。よってテラヘルツ望遠鏡を使用することで、銀河の形成や進化の謎が解明されると考えられています。

望遠鏡完成予想図
テラヘルツ望遠鏡完成予想図

南極の厳しい環境

南極といえば、寒い!というイメージがありますよね。南極の最低気温はなんと-80℃。最高でも-20℃ほどで、平均では-50℃という寒さ。そんな極寒の地で、観測に影響はないのでしょうか。
その答えは「大いにある」とのこと。
まず、望遠鏡を-80℃でも耐えられる素材で作る必要があります。一般的に用いられている鉄の合金は気温が下がると強度も低くなってしまうからです。
また一見問題なさそうなのですが、南極は年間を通してほとんどの日が晴れている、ということも重要です。放射冷却が起きることで主鏡面(アンテナの表の面)の温度が周囲よりも下がり、アンテナに霜が付いてしまいます。するともちろん、観測は不可能です。これを防ぐにはアンテナを温めなければなりません。南極で電力を得るためには自家発電が必要ですが、南極での自家発電は非常に困難です。

そして最後に、テラヘルツ望遠鏡の設置場所である新ドームふじ基地についてです。基地は標高3,800m地点に建設予定なのですが、3,800mのうちのほとんどは氷でできており、その表面は雪におおわれています。望遠鏡は70~100トンの重さがあるので、やわらかい雪の上に置くと土台が不安定になり傾く恐れがあります。望遠鏡は目的の天体にしっかりと向いていることが重要なので、傾かない、あるいは傾いても補正できるようなシステムが必要です。

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ドームふじ基地の位置

今後の展望

南極は今後の天文観測の重要な拠点として発展していくのでしょうか。今回お話を伺って、日本あるいは世界の天文学の新しい発展のためには、南極での観測が不可欠であることが分かりました。南極は地上最高の観測地ということですね!
現在宇宙観測研究室では10m級テラヘルツ望遠鏡実現を目指していますが、その後は30m級テラヘルツ望遠鏡の開発も検討しているそうです。

〈先輩方に聞きました!〉

なぜ宇宙観測の研究分野を選択したのですか?

みなさん共通していたことは、小さいころから宇宙に興味があったということ!小学生のころから天文学の本を読むなどしているうちに、宇宙関係に進みたい、とおのずと考えるようになった方もいれば、大学院進学時に研究室を調べている中で、ぜひやってみたい!ここしかない!と感じた、という方もいました。

学生は研究室でどのようなことをしているのですか?

学年によっても異なりますが、実際に観測を行っている人や、カメラやアンテナなどの観測に必要な機器を作っている人もいます。今回お話を伺ったみなさんは修士1年ということで、現在は具体的な研究よりも勉強が主だそう。望遠鏡、干渉計の仕組みなど、電波天文学を学ぶ上で必要なことを勉強しているようです。

大学院修了後、どのような進路を希望していますか?

観測手段として学ぶプログラミングを用いたデータ解析のスキルを利用できるような職業に就く、あるいは、電波について学んでいるので新しいレーザーの開発をしてみたい、などを挙げていただきました。研究室で学んだことを生かしたい、その中でも宇宙に関するものに携わりたい、と考えているそう。

宇宙観測研究室に入って良かったと思う瞬間や研究室の魅力を教えてください

理論系よりも実験系の研究室は人数が多く、周りの人から影響を受けることが多いようです。同級生で学会の発表を準備している人などもいて、色々な刺激を受けることも。
また最近、みなさんで国土地理院32m鏡表面のアンテナ部分にのぼったそうです。
この研究室ならではということですが、なかなか出来ない経験ですよね。面白そうですね!

高校生へのメッセージをお願いします!

「南極天文学が実現し10m望遠鏡が南極に設置されれば、一気に天文学が広がります。天文学はこれからまだまだ発展していく分野なので、宇宙開発に携わりたいと思って大学に入学すれば、できることはたくさんあります!何か夢があったり、大学で専門的に学びたいと考えていたりするなら、ぜひ積極的に行動してください。」

「宇宙というのは複合的な分野。宇宙への関わり方は一通りではないので、どういう風に宇宙と関わっていきたいのかまで考えられると、自分の目標も見えてくるはずです。そしてそのことには、できるだけ早いうちから気づいてほしいと思います。」

「学校で教わることを信用しすぎてはいけません。先入観や固定観念を持たずに、自分の頭で考えることが大切です。また、クラブ活動などにも参加して、高校生活を充実させてください。」

まとめ・感想

宇宙とはそれほど関係が無いように思える南極。しかし南極なくして今後の天文観測を語ることは出来ないようですね。環境が厳しいために技術面の課題はありますが、それ以上に南極天文学には魅力があります。現在はまだ見つかっていない遠方の銀河が発見されることは、より昔の宇宙を知ることに繋がるからです。謎が多い宇宙だからこそ、何か新しいことが解明されるのはとても楽しみです!高校生のみなさん、宇宙観測研究室に入れば、10m、30m級のテラヘルツ望遠鏡設置に立ち会えるかもしれません!
ちなみに学生(大学院生)が南極に実際に出向くとなると、授業や論文、安全性の面から、夏隊のみが可能で、越冬隊にはなれないそうです。残念ですね…。

南極天文学参加大学

南極天文学は筑波大学が推進していますが、国内の機関や大学とも共同で研究を行なっています。参加大学は、東北大学、関西学院大学、北海道大学、埼玉大学、立教大学、金沢大学、日本大学、新潟工科大学です。

宇宙観測研究室で研究したい!

筑波大学理工学群物理学類に入学しましょう。筑波大学では4年次で卒業研究のために研究室に配属されます。
あるいは、大学院で数理物質科学研究科の物理学専攻への入学でも可能です。他大学から入学された方も多くいらっしゃるそうです。宇宙観測研究室は実験系の研究室ですが、大学では理論系の研究をされていた方もいます。

筑波大学オープンキャンパス

2015年度の筑波大学オープンキャンパスは8月1日(土)、2日(日)、8日(土)の3日間で行われます。*理工学群物理学類は8日。
みなさん、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。
オープンキャンパスについて詳しくはこちら

研究室へのアクセス

つくばエクスプレス「つくば駅」にてバス6番乗り場から「筑波大学中央」または「筑波大学循環」(右回り左回りともに可)のバスに乗車。
「第1エリア前」バス停で降りる。バス停近くにある12階建ての総合研究棟Bの4階。

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