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宇宙芸術 TELSTAR×三浦茉莉子

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「だいち」(©三浦茉莉子)



宇宙芸術

TELSTAR×三浦茉莉子



得意な芸術での表現と好きな宇宙、2つの繋げ方がわからず将来を悩まれているあなたへ。

宇宙×芸術という新たな分野を切り開き、美しい作品を生み出し続けている方がいます。

「好き」・「得意」を仕事にする三浦茉莉子さんの生の声を届けることで、将来に悩む方へ新たな視点を届け、ハッとなる気付きをお届けします。


 

三浦茉莉子さん


1992年生まれ。女子美術大学大学院美術研究科修了(日本画専攻)。女子美術大学日本画専攻助手を経て、現在も、日本画家として活躍中。主な作品に『life』、『だいち』、『向地葵』など。⼥⼦美術⼤学美術館奨励賞、同大学卒業制作賞、東⼯⼤ペリパトスギャラリー理学院⻑賞受賞。


・日本画とは…


 「日本画」という言葉が生まれたのは明治維新(1870年代)以降であり、実は比較的新しい言葉です。

起源は中国から伝わった唐絵(からえ)です。唐絵が日本的に変化し、大和絵(やまとえ)と呼ばれるようになり、更に明治以降でそれ以前より存在した日本の伝統技法を守りつつ、西洋画技法を取り入れることで「日本画」の概念が誕生しました。

 「日本画」の主な特徴は以下の5点です。

1.写真のように写実を追わない

2.陰影がない

3.輪郭線がある

4.色調が濃厚ではない

5.表現が簡潔である

 とはいえ、厳密な分類は上記の5点ではなく「画材」によって行われています。なぜなら近年では上記の特徴に、新たな技法が加わることで常に変化を遂げているからです。

 「日本画」は主に、絵を描くキャンバスとして絹や和紙を使用し、墨や岩絵の具、水干、胡粉(貝殻を粉末状にしたもの)、染料、金箔などの天然素材、接着剤としての膠(にかわ)を用いて描く技法がとられています。



 

Q.三浦茉莉子さんの宇宙への関心のはじまりはいつでしたか。


 小さな頃から宇宙が好きでした。宇宙を舞台に描かれたSFが好きで、繰り返し読みました。祖父に連れられてプラネタリウムに通い、星や空を通過するISSを見るために望遠鏡を持って家を飛び出していくこともありました。どちらも宇宙が身近なものであると感じさせてくれるきっかけになりました。

 

 

Q.日本画、そして出身校である「女子美術大学」との出会いを教えてください。


 進路を選択するとき、理系分野への憧れがありましたが、得意で学びたかった芸術分野以外の進路は考えていませんでした。選んだ進路が、「好きな宇宙に繋がるものではないかもしれない。」という悔しさはありましたが、逆に「得意なことで好きな宇宙に近づく方法を模索したい」という考えに至りました。

 芸術の中でも「日本画」を専攻として選んだのは、高校生のときに訪れた日本画の展覧会がきっかけでした。それまで数多く鑑賞してきた油絵は、絵から飛び出してくるように感じるのに対して日本画は、むしろ鑑賞者自身が画面の中(絵の世界)に入っていけるような感覚が面白いと感じ、学びたいと思いました。
 
今では、日本画を使い宇宙を描くことによって、鑑賞者にも宇宙空間を一緒に漂っている気持ちになって貰えるのではないかと思っています。

 大学進学の時期に差し掛かり、はじめは「東京芸術大学」への進学を視野に入れていましたが、浪人中に「女子美術大学」に出会い、絵の具の研究を行っている点、丁寧な指導とゆったりとした時間の流れているかのような環境が、自分に合っていると思い進学を決意しました。

「女子美術大学」では入学後、他に宇宙機を主題に日本画を描かれている方がいない中で、私のことを否定することなく伸び伸びと創作活動を行わせてくれた大学には感謝をしています。

 また、私が進学した女子美術大学は絵具の研究を行っており、日本画の絵具について深く学ぶことが出来ました。その中で日本画の技法を用いて宇宙機を表現する意味が自分の中でどんどん確立していきました。



 

作品について




Q.宇宙機を主題にし始めた時期・きっかけを教えてください。また現在も宇宙機を描き続ける理由は、どのような点にありますか。


 宇宙機を主題に描き始めたきっかけは、大学入学後「主題を自由に描いても良い」という課題が出され、そこで「はやぶさ」を描いたことにあります。課題が出された際に、「これは私の好きなものを描くチャンスだ」と思い「はやぶさ」の行った功績や道のりに惹かれ作品にしました。はやぶさを描いたとき、宇宙機に用いられる”サーマルブランケット”と呼ばれる薄いフィルムの質感を金箔や銀箔で表現する面白さ、岩絵具で宇宙機を表現する面白さに気づきました。

・サーマンブランケッとは…



 ポリイミドという黄色の樹脂フィルムにアルミニウム粒子を付着させた多重層熱材と呼ばれるもので、主に断熱の役割を果たす。




Q.岩絵絵具を使って宇宙機を描く魅力はどのような点にあると思いますか。


 私が自分の作品を説明する際に必ずお話しするのですが、日本画は岩絵具と呼ばれる絵具を使って絵を描きます。岩絵具は、鉱物や⼟といった⾃然物を粉状にする事で作り出す絵具です。
 
 ⾃然物から作られた絵具を使って絵を描くとき、私はそれが地球という星から⽣まれた絵具であることを強く意識します。また地球から作られた絵具ということは元をたどれば宇宙から作られた絵具と⾔えるかもしれません。

 私はそのような地球や宇宙を感じることの出来る素材を使い、宇宙、とりわけ宇宙機を描く面白さに魅了され絵を描いています。これは大学で学んでいく中で自分の中で確立していった考え方になります。



Q.三浦さんの作品ならではの特徴・楽しみ方はありますか。


 日本画の特徴として、起伏(奥行きの表現)があります。私のギャラリートークでは、訪れた方に実物の絵画に触れてもらうことがあります。触れることで日本画独特のザラザラとした質感を感じることができ、絵具が細かな粒子の集まりであることを感じていただけます。

 日本画に用いられる絵具は、地球上にある自然の鉱石や貝殻を砕いて作られています。直に触れることで、地球から作られた絵具であることを感じていただけるのではないでしょうか。

 このように、実際に絵に触れる機会を催す事はなかなかないと思いますが、展示会場を訪れて見るだけでもこれらの質感を感じることができると思うので、ぜひ日本画の展覧会に訪れていただければと思います。

 



Q.日本画で用いられる岩絵の具には、光の加減、見る角度によって表情が異なるといった特徴があると聞きます。
この点は、宇宙の無限に広がる暗闇や惑星の凹凸の表現に一役かっているのでしょうか。


 日本画を粒子レベルで見てみると、その粒子の一粒一粒に光が複雑に入り混じっていることがわかります。私が日本画を勉強し始めたきっかけでもありますが、光が複雑に絡み合い、画面に深さを生み出しています。その深さが無限の暗闇を表現するうえで非常に役立っていると思います。

 また、画面に絵の具を重ねることで凹凸を作り出す、盛り上げ技法も作品に取り入れています。星のクレーターを描いた作品がこの例です。これにより、見る角度によって異なった表情を見せる作品にすることができ、その僅かな立体が作品を見るうえで、臨場感を際立たせていると思います。




(©三浦茉莉子)


Q.宇宙機のどういった点に魅力を感じますか。


 宇宙開発を行っている方たちが丹精を込めて作っているところに一番魅力を感じます。一つ一つ丹精を込めている点では、作品を作る自分にも共感する部分があります。

 また、丹精込めて作られた宇宙機が、宇宙に飛び出して遠く離れた場所、宇宙空間という人体には厳しい環境の中で活躍する姿、人体には出来ない大きな役割を果たしている点にも魅力を感じます。

 今は私が描いているものの多くが衛星ですが、その他の宇宙機にも魅力を感じており題材にする予定です。



創作活動について




Q.三浦さんにとっての宇宙の魅力、どのような点を美しい・魅力的と感じますか。


 自分が知らないことで満ち溢れている点に魅力を感じます。知らないということは、大きな恐怖でもあり、好きという感情だけでなく、時には冷たく感じることもあります。実際に、作品を制作する中でしばしば大きな恐怖感に襲われ、落ち込んでしまうこともあります。ですがそのように到底把握しきれない大きな存在であることも含め、美しいと感じています。

 また、私は私の周りのもの全てが宇宙であるとも考えています。目の前の生命は一旦自分の目からは見えなくなる時もありますが、宇宙という点では変わらず存在しています。そのため、周りの生命を好きだと思う延長線上に宇宙もあり、美しいと感じます。

 

 

Q.創作活動の中での困難はありますか。


 衛星を絵に描くうえでスケッチができないということは非常に難しいです。そのためできる限り取材を行なっています。ですがなかなか実物を見るのは難しいので、自分の中で宇宙機の形をよりリアルにするために、絵を描く前に立体として作ってみたり、博物館に実験モデルなどがある宇宙機の場合は何回も繰り返しスケッチを行なったりします。

 また、形だけでなくその宇宙機の役割も調べます。これらを十分に行って絵を描くことで、実際には見えないものではありますが、鑑賞者が作品を見た時によりリアルに感じてくれるのではないかと思っています。




Q.無限に広がる宇宙を一つのキャンバスやパフォーマンスに落とし込む・表現する難しさはどういったものがありますか。


 画面においてはわずかな範囲で、無限に広がる空間を表現する難しさはあります。そのため数センチであったとしても何度も繰り返し描き、深く広がるように描いています。

 また宇宙が特に好きではない方にとっては、私の主題はそもそも何を描いているのかわからない方が多くいると思います。実際、これはなんでしょうか?と聞かれることも多くあります。ですがこれはなんだろう?と感じてくれるだけでも嬉しいです。

 私の絵を通して宇宙に興味を持ってもらったり、逆に芸術に興味を持ってもらったり、微力ながらその架け橋になれるのではないかと考えています。

 



 (©三浦茉莉子)

Q.日本画は、伝統的な技法を守りながらも、西洋画の技法を取り入れることで、現在の形式に至りました。このように芸術は、互いに影響しあい常に時代とともに変化するものだと思います。この先日本画以外の技法・要素を取り入れていきたいという想いはありますか。


 自分の作品にとって最善と思われるものはどんどん取り入れていきたいと思います。

 ただ日本画の世界はいくら学んでも奥深くまだまだ自分には学ぶことがあると痛感する日々です。他の要素を取り入れたとしても、今までの制作の軸は忘れず大切にしていきたいと思います。

 

 

Q.もし宇宙にあるもの(空間・環境)を好きに使うことができたとして、どのような表現をしてみたいですか。


 今より手軽に宇宙のものが手に入るとしたら、ぜひ画材として使用してみたいです。

岩絵具が地球にある鉱石などを原料としているように、他の惑星の素材を原料にできれば作品の世界が広がると思います。

 

 

Q.三浦さんの作品には実際の宇宙では訪れない場面を描いたものがありますが、普段は直接見ることのできない宇宙を鑑賞者が受け入れやすいように実際にはない描写を意図して入れるようにしているのでしょうか。


 私が描いている宇宙機は実際に開発を行っている方からすれば科学的に忠実ではない表現に溢れています。ですがそれが芸術の面白さでもあると思います。例えば「だいち」では運用を終えた宇宙機の姿を表現するために、破片が散らばるという表現をしましたが、実際の様子はこのようではないでしょう。

 また、まるで宇宙空間に空気があるように表現することもあります。鑑賞者が見た時に気持ちよく空間を把握するためそのようにすることもあります。

 科学的に忠実ではない表現をすることによって、私の意図をそこにのせられるのだと思います。それは例えば悲しさや切なさであったり、感謝や希望であったりします。



読者へのメッセージ




Q.どのようにして自身に合った技法と出会いましたか。


 私は絵を描く前に繰り返し下書き(絵の計画となるようなもの)を描きます。それを描くことで自分が何を表現したいのか、描きたいのか、そのためにはどのように表現したらいいのか確立していきます。

うまく表現できた時と出来なかった時を比べ検討し、この方法を見つけ出しました。

 

Q.宇宙機には、多くの人々の生活に直接役立っているものと、純粋な学術研究の為に利用されるものがあります。後者を描いた作品もありますが、後者についてはどう思っておられますか。


 学術研究も芸術も人によっては生活、社会に必要ないと感じる人もいると思います。ですが一見そのように見えるものでも、私たちが生きていく上で実は非常に重要なものは沢山あると考えています。それらは私たちの見える世界の領域を広げてくれるのだと思います。


Q.芸術作品には、風景や人間の社会活動など、身近にあるものが題材となるケースが多いですが、それに対して宇宙は遠くにあり、夜空を見上げることくらいしか直接体験することができません。その為、他の題材よりも遠い存在であるように思います。三浦さんは、宇宙や宇宙機を遠い存在だと捉えて芸術活動をしていますか。それとも身近なものとして捉えていますか。


 私は宇宙は身近な存在として感じています。地球を題材にする絵、身近な動植物を描いていたとしても、それは同時に宇宙であるとも考えて描いています。

 そのような考えに至ったのは、私が宇宙を好きだからかもしれません。また、私は宇宙を身近に感じられる時代に生まれたと思います。

 どう宇宙開発を感じられるか、どの視点を持ってこれからの宇宙開発をみるかは、作品にも影響すると思います。今は宇宙機を題材に制作している日本画家は、私以外にいないように思うのですが、民間にも宇宙開発が広がっていますし、これからは当たり前のように主題として取り入れる人が出てくるのではないかと思っています。


Q.宇宙芸術を志す方へアドバイスをいただけますか。


 興味があることをまずは広げ、次に深めていくのが良いと思います。その先でまずは、自分の中で中心となる考え方(私の場合は日本画でしたが)を一つ見つけられれば、それが軸となって、ものを見る視点や、表現をする上での視点に繋がるのではないかと思います。

 これから宇宙開発はますます身近なものとなり、たくさんの学びが宇宙芸術に繋がる可能性を秘めていると思います。自分なりの作品にするための切り口や方法を見つけることができるのではないかと考えます。




作品の紹介


 

(©三浦茉莉子)


title: life
三浦茉莉子 作

制作日:2020年


 絶え間なく続く科学技術の発展の中であっても、生命への視点を尊重する社会であってほしいという祈りが込められた作品。シンメトリーの構図、輪郭を金泥で表現するなど三浦さんが幼い頃から親しんできたカトリック(宗教)を感じさせる要素が散りばめられている。

作品は、縦2.4m横3.9mと大型で、鑑賞者は絵を見るときには見上げることとなる。見上げるという行為が神聖なものを見ている感覚を引き立てる。

無数に描かれた一つ一つ表情が異なる丸は、星や生命を表している。









〇三浦茉莉子さんの各種SNS

三浦茉莉子さん twitter
https://twitter.com/sabazushi_suki

 

三浦茉莉子さん Facebook
https://m.facebook.com/people/%E4%B8%89%E6%B5%A6-%E8%8C%89%E8%8E%89%E5%AD%90/100009208035626?locale2=ja_JP







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引用:

日本画ってなに?知ってるようで知らない日本画の世界 | はたらくビビビット by Vivivit, Inc.

宇宙は究極のアウトドア? 宇宙開発で生まれたあのブランケット。 | Akimama - アウトドアカルチャーのニュースサイト (a-kimama.com)
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