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H3ロケットCFT取材記 ~ロケット取材の舞台裏~【冊子27号スピンオフ記事】

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2023年4月9日、宇宙広報団体TELSTARは冊子『TELSTAR』27号を発行しました。同誌では、2022年11月に行われたH3ロケット試験機1号機1段実機型タンクステージ試験=CFTを特集しています。この記事では、冊子から泣く泣くカットしたCFT取材記の一部をお届けします!ロケット取材の舞台裏をぜひご覧ください。

 

冊子27号はこちらから。電子書籍で、スマホ・パソコン等からご覧いただけます。

 

プロローグ

2022年10月中旬、JAXAからTELSTARへ取材案内が届いた。国産大型ロケットのCFTが見られる機会は、これまでの開発スパンを考慮すれば20年に1度しかない。いや、あるいはもう──。そう考えた私はすぐに申し込み、宿とレンタカー、高速船の手配をした。懐事情の厳しい学生団体、ある程度の自費は覚悟の上である。種子島での打上げ見学は、交通手段と宿の確保が難しい。しかも、最近は近くにある馬毛島での工事により、さらに難易度が上がっている。しかし今回は幸いにも、空きがあった。天啓だ。

 

種子島へ

11月4日、羽田からフライト。しかし、目的地は鹿児島空港ではなく、北九州空港。翌日、九州鉄道記念館にてイベントが開催されるという情報を掴んでいたため、ついでに行ってしまおうという魂胆である。今回の取材とは関係なく、完全に鉄道オタクである筆者の趣味だ。そして5日、貴重な「銀釜」とよばれる電気機関車の並びを見学したのち、鹿児島へ向かい、霧島市にある実家で英気を養った。

 

「銀釜」こと、電気機関車EF510形300番台とEF81形300番台 

 

6日、ダーク・グレーの車体が美しい特急「きりしま」で鹿児島駅へ向かい、駅から徒歩20分ほどで種子・屋久高速船ターミナルに到着。チケットを発券し、高速船「トッピー」へと乗り込んだ。乗り込むと「シートベルトをお締めください」とアナウンスがあり、程なくして甲高いエンジン音が響き、「翼走中」のランプが点灯する。そう、これはただの船ではない。ウォータージェットを噴射し、水中翼で揚力を得て船体を浮上させる「海を飛ぶ」船なのだ。出港時に大きく見えた桜島が小さくなり、右に「薩摩富士」の呼び声高い開聞岳、左に本土最南端の佐多岬が見えると、いよいよ錦江湾から大隅海峡へと出る。揺れもなく船内でうとうとしていると、ロケットの形をした灯台が見えてきた。出港から1時間半、種子島西之表港への到着である。

 

787系「きりしま」 1992年デビューの形式ながら古さを感じさせない

種子屋久高速船と桜島 ちょうど噴煙を上げていた

種子島西之表港のロケット灯台

 

前日

港では予約していたレンタカー店の方が待っていてくださり、早速レンタカーに乗り込む。ホテルへのチェックインを済ませ、一路種子島宇宙センターへと向かう。国道58号線沿いの美しい海岸線の景色に、移動の疲れも飛んでいく。70分ほど車を走らせれば、南国風情溢れる木の下に「TNSC」と書かれた看板が見える。宇宙センターへの到着だ。資料館脇のN-IロケットやH-IIロケットの模型を通り過ぎ、記者の集合場所である竹崎展望台へと車を停めた。受付を済ませると、プレスセンターに案内された。ここにはWi-Fiやコンセント、各報道機関用の机が用意されており、窓越しに射点を眺めることができる。程なくして「宇宙広報団体TELSTAR」の張り紙がされた机を発見した。荷物を置き、知り合いの記者の方々と談笑しているとすぐ、集合時間がやってくる。今回は「機体移動見学ツアー」が催され、射点と約400m離れた地点から、18時30分に始まるロケットの機体移動を取材することができたのだ。

 

種子島宇宙センター入口 南国情緒溢れる景色

「報道」腕章をつけて取材に臨む

 

記者たちを乗せたバスは検問所を通過し、大型ロケット発射場内に停車した。懐中電灯を照らしながらプレススタンドにつくと、時刻は18時20分過ぎ。「マズい!移動開始まであと少ししかない!」私は急いで三脚を立て、カメラのセッティングを行う。周りの記者も同様だ。準備が完了したかしないかという時、VAB=大型ロケット組立棟から移動発射台の支柱が姿を現した。発射台とロケットを結ぶアンビリカルケーブルも見えてくる。ギリギリまでセッティングをしていると、白色と黄色の物体がとうとう姿を現した。そう、あれこそが、日本の新型基幹ロケット「H3」である。興奮に震える手を抑えながら、私は夢中でシャッターを切った。竹崎第2射点へと向かうH3は、途中で2回方向転換をするため、私たちにさまざまな姿を見せてくれた。19時10分ごろ、射点への移動が完了。機材を片付け、早々に撤収した。間近から見るロケットは何とも言えぬ迫力と魅力があり、現地職員に促されなかったら、私は一晩中あの雄姿に見惚れていたことだろう。ホテルに着いたのは結局22時過ぎであり、写真投稿などを済ませ、24時に就寝した。X時刻は7時30分。1時間前にプレスセンター入りすることを考えれば、5時には起きねばならない。私は寝坊しないよう祈りながら、まだ興奮している身体をベッドに預けた。

 

7日の取材記は冊子27号をご覧ください

 

~冊子に掲載できなかった7日撮影の写真をご紹介~

 

射点上のH3ロケットと白鳥 あの鳥のように美しく飛んでほしい

人気の見学スポット 長谷展望公園から見たH3ロケット

H3ロケットと広田遺跡 種子島で過去と未来が交差する

 

種子島を出て

翌8日、再び高速船ターミナルから乗船し、帰宅の途につく。これで取材も終わり......かと思いきや、CFTに劣らぬ宇宙イベントが待ち受けていた。そう、この日は皆既月食の日だったのである。偶然近くにいた高校の後輩たちと待ち合わせ、月食の時を待った。語らっているうちにどんどん月は欠けていき、あっという間に食の最大を迎えた。途中、国内では442年ぶりだという天王星食を観測することもでき、大満足であった。本誌上でも述べたが、改めて関係者の皆様にお礼を申し上げたい。

 

皆既月食 下には天王星も見えている

 

残念ながら、2023年3月7日に実施されたH3試験機1号機の打上げは失敗に終わった。しかし、打上日の青空のように、H3の未来は明るいものと筆者は信じている。H3よ、頑張れ!!!

 

文・撮影 加治佐匠真

 

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