宇宙でもおいしいものを食べたい!~東北大学菜食プロジェクト×TELSTARコラボ企画第一弾~
はじめに
本記事は、菜食を広める活動をおこなう東北大学菜食プロジェクト(以下:菜プロ)とのコラボ企画の第一弾です。この企画は、万人に開かれた宇宙開発実現の観点から、宇宙食と菜食のかかわり・宇宙食の未来などを取り上げます。近日公開の第二弾では、宇宙食で重要視されるタンパク質摂取をとりまく倫理的問題・環境問題について、菜食主義を絡めながら議論をおこなう予定です。※記事の最後に、菜プロの詳しい紹介を掲載します。
コラボ第一弾の本記事では、まずは普段宇宙食を食べない人に宇宙食を知ってもらうために、実際に科学館などで購入できる宇宙食を試食&レポートしていただきました!
今回試食した宇宙食
今回は、参加者の希望アンケートをとり、できるだけ異なる保存方法の宇宙食をピックアップしました。今回取り上げた宇宙食は、以下のものです。サムネイル画像もご参照ください。
今回試食した宇宙食一覧
※アルファ米とは、炊いた(=アルファ化した)米を急速に乾燥させたもの。お湯や水でもどして食べる。またフリーズドライ食品とは、食品を凍結させて真空状態に置くことで水分を昇華し、乾燥させたもの。宇宙船内では水でもどして食べるが、市販の宇宙食にはそのまま食べるものもある。
輸送費削減などの観点から、宇宙食は軽量化や長期保存にこだわって開発されます。その技術は、私たちが災害時に備えて蓄える食品、いわゆる「災害食」にも使われています。もちろん、長い時間を特殊な環境で過ごすことになる宇宙飛行士たちの身体的・精神的健康を維持するために、栄養価や味にもこだわって作られています。
そんな宇宙食を、今回コラボした東北大学菜食プロジェクトのメンバーと、普段宇宙食になじみがないという東北大学文学部/文学研究科の学生のみなさんに試食していただきました。さっそく実食です!
実食
カレーライス(宇宙白飯・宇宙おにぎり 赤飯・スペースカレー)
まずはカレーライスを試食。「宇宙日本食」はJAXAが認証している宇宙食で、「宇宙でも日本の味を楽しんでもらい、安らぎを感じてほしい」という思いから開発されました。
パッケージに表示された宇宙日本食認証マーク
宇宙日本食は、NASAやロシア宇宙局の宇宙食とは違い、民間の食品メーカーが製造を行っています。今回はそんな宇宙日本食の中から、白飯・赤飯・レトルトカレーをセレクトし、宇宙食でつくる日本の家庭の味を体験していただきました。
盛り付けた宇宙白飯とスペースカレー
使用した米類はアルファ米で、熱湯を注いで15~20分ほど待ちます(常温の水だと約1時間)。赤飯と白飯では食感も異なっており、赤飯は先ほどまでの乾燥が嘘のようにもちもちでした!また、レトルトカレーも食べ慣れたカレーの味で、言われなければ宇宙食であるとはわからないほどでした。宇宙でも美味しいカレーが食べられるよう、味付けを濃くするなどの工夫が行われているようです。
【参加者のコメント】
自分がもし長期滞在をするなら、毎週金曜にはカレーライスを食べたい。
JAXA認証宇宙日本食ちりめん山椒(袋)
リアリティのあるパッケージ
こちらの宇宙食は、パッケージが実際に宇宙で食されているもののレプリカになっています。こちらも、味に関しては通常のちりめん山椒と遜色ありません。宇宙船内で飛び散らないよう、ちりめんじゃこ同士がくっついた状態でパッケージされていました。
【参加者のコメント】
味はふつうに美味しいちりめん山椒です。
スペースブレッド 宇宙のパン(チョコレート)
缶入りのソフトパンです。缶で保存されていたとは思えないほどしっとりふわふわの食感でした。
©TELSTAR
ライスケーキ(おもち)
フリーズドライ製法のおもち。そのまま食べると、赤ちゃん用おせんべいを少しおもちっぽくしたような食感でした。
水でもどす前のおもち
浸るくらいの水でもどすと、かなり柔らかめのおもちになりました。付属のきなこをかけて食べましたが、浮遊する粉末が機器の障害を引き起こす可能性を考えると、きなこのおもちを宇宙船内で食べることができるようになるのはまだ先のことですね。
水でもどしている様子
【参加者のコメント】
お水を入れてもどすという工程がおもしろい!!
レアチーズケーキ
こちらもフリーズドライ製法。水でもどすなどはせず、そのまま食べます(ISSなどで食べられるフリーズドライの宇宙食は、付属アダプターから水を入れてもどして食べます)。味はレアチーズケーキでしたが、かなりサクサクでケーキかどうかは疑わしい食感でした。レアチーズケーキ味のふ菓子といった雰囲気です。
©TELSTAR
【参加者のコメント】
ラムネみたいな雰囲気がある・・・・・・
参加者が宇宙食に求めるものは?
今回参加してくださったみなさまに、実際に宇宙食を食べてみて感じた「あったらいいな」をうかがいました!
これらのご意見のなかには、すでに実現されているものもあります。しかし、将来的に宇宙飛行士の門戸がより開かれていくことを考えると、菜食主義者のかたや食事制限のある宗教の信者のかたなど、食べられるものが限られている人々も食すことができるような宇宙食の必要性が今よりさらに増していきます。そんな中今回おこなったような、宇宙食に関して幅広い人々の意見を募ることは有益といえるのではないでしょうか。
菜食とは
今回の食レポ企画は、東北大学菜食プロジェクトのみなさまとのコラボの一環です。
東北大学菜食プロジェクトは、東北大学文学部・文学研究科の学生を中心に2022年に立ちあがった団体です。目標として、《①菜食と社会問題解決のつながりを知るきっかけを作る》、《②菜食は誰でも取り入れられるものだという認知を広める》、《③学食の菜食メニュー充実を促進する》の3つを掲げています。昨年12月には講演会「菜食で環境問題を解決する!?」を開催しました。今後は勉強会や学食への働きかけに取り組んでいきます。さて、ここでこれまで何度も登場した「菜食」について触れておきます。「菜食」とは、動物性食品を避け、植物性食品を中心とする食事のことを指し、それを実践する人は「菜食主義者(=ベジタリアン)」と呼ばれます。動物性食品をどこまで許容するかによって異なる名前があり、例えば「ヴィーガン」は肉・魚・卵・乳・蜂蜜など、あらゆる動物性食品を避け、衣料品や化粧品などの食べ物以外でも動物を利用しない人のことを言います。そうした生活を選ぶ理由は、動物を守るため、環境負荷を下げるため、よりよい健康のためなど様々です。最近は日本のチェーン店でも大豆ミートを使ったメニューが登場するなど広がりを見せています。
東北大学菜食プロジェクトの活動に興味があるかたは、菜プロのInstagram(@veg_tohoku)にアクセスしてみてください。また、お問合せはメール(veg.tohoku@gmail.com)でも受け付けています。
コラボ後編では、昆虫食・培養肉・大豆ミートなどを取り上げ、宇宙飛行士の健康にはとくに重要なタンパク質摂取をとりまく倫理的問題・環境問題について、菜食主義を絡めながら議論をします。
さいごに
宇宙食に関する情報は、過去のTELSTARのWeb特集や冊子企画でもご確認いただけます。是非ご覧ください(宇宙食のWeb記事一覧はこちら、フリーマガジン最新号・27号はこちらからどうぞ)。
また、今回の記事でいただいた宇宙食は、全て宇宙の店さまで購入しました。ほかに、全国のJAXAミュージアムショップや全国の科学館のミュージアムショップなどで購入することができます。市販の宇宙食は本物と異なる点も多いですが、宇宙飛行士のみなさんの憩いの時間である食事を可能にした技術を手軽に楽しめます。「宇宙日本食」に関しては、その性質上お近くのスーパーマーケットなどに認証マーク付きの商品が販売されていることがあります。ぜひ探してみてください。
参考文献
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コスモス食品「フリーズドライとは」,コスモス食品ホームページ,https://cosmosfoods.co.jp/fd/about-fd/
- ハウス食品「スペースカレー」,ハウス食品 ホームページ,https://housefoods.jp/products/details/space_curry/index.html
- JAXA 有人宇宙技術部門「宇宙日本食」,JAXA 有人宇宙技術部門|Human in Space,https://humans-in-space.jaxa.jp/life/food-in-space/japanese-food/
- 京宝亭「JAXA認証宇宙日本食ちりめん山椒(袋)」,京宝亭,https://www.kyohotei.co.jp/products/detail/303
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農林水産省「アルファ米とはどのようなものですか。」,農林水産省ホームページ,https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1209/01.ht ml
- 田島眞(著)・西成勝好(コーディネーター)『宇宙食 人間は宇宙で何を食べてきたのか (共立スマートセレクション)』共立出版,2015