宇宙食の新時代到来!「宇宙×食」のイベントに潜入! #3
3月27日に行われた、「『宇宙×食』ビジネスのポテンシャル〜サステイナブルな宇宙生活と地球環境の実現を目指して〜」のイベント潜入記事第3弾!
この記事で取り扱うパネルディスカッション2の登壇者は以下の5人。(写真左から順)
菊池 優太 [JAXA新事業促進部 J-SPARCプロデューサー] ※モデレーター
田中 宏隆氏 [(株)シグマクシスディレクター/Smart Kitchen Summit Japan主催]
榊 良祐氏 [(株)電通Design Strategist/OPENMEALS founder]
島田 昌幸氏 [(株)ワンテーブル 代表取締役]
「7兆」の可能性を持つ食
株式会社シグマクシスディレクターで、Smart Kitchen Summit Japanを主催している田中宏隆氏は、食や料理におけるイノベーションの可能性を次のように表現している。
「1日3回、世界中の人が食事をとると仮定したとき、一年間で7兆回もの食事が行われています。それにもかかわらず、ここ2週間の食事全てに満足できている人はいますか?いませんよね。
7兆の中の10%の人の不満を解消でき、その分10円でもお金を払ってもらえると考えれば、莫大な市場規模であることは容易に想像できます。」
田中氏はSpace Food Xについても述べた。
「今日本では、このイベントのように食に関してビジョンを語るような場が増えてきている。しかし、それを実装したり提案したりする場が足りていない。だから、このSpace Food Xには、宇宙という場所を実験場にしてそこで実証したものをどんどん地球に出していってほしい。」
普段私たちがとっている「食事」に7兆もの可能性が秘められていたなんて考えたこともなかった。私たちが普段何気無くやっていることを、改めて別の視点から見つめ直すこと。それが、新しいことを成し遂げるためのポイントなのかもしれない。
防災×宇宙
ワンテーブルは宮城県の会社で、東日本大震災を経験した。その際、防災食には乾パンなど乾いたものがほとんどで水分を含んだ食べ物は何もない。水道は断裂しているので水はない。これでは、食べると喉が乾いてしまい、子供や高齢者の方には特に負担となってしまう。
阪神淡路大震災でも、熊本の大地震でも、同じような問題が起こったはずだ。しかし問題は全く解決されていない。これはおかしいんじゃないか。
そう思った島田氏は、ゼリー状の防災食を開発しようと思い立った。しかし、そういった防災食が今まで作られなかったのには当然、理由がある。水分を多く含むと、菌の繁殖を抑えることが難しく、長期保存が求められる防災食には向かないのだ。
しかし、ワンテーブルはその難題をクリアした。5年間保存できるゼリー状の防災食を完成させたのだ。
この開発の過程で、ワンテーブルは菌を半永久的に繁殖させない技術を手に入れた。その技術は当然、宇宙食にも応用できる。そこでワンテーブルはJAXAと共同でBOUSAI SPACE FOOD PROJECTで宇宙での食についての研究に取り組んでいる。
防災と宇宙。一見なんの関係もないように思える2つの分野が、「食」というフィールドで関わり合いを持つようになった。
今まで一部の人だけが関わっていた宇宙という分野。「食」というフィールドが、今まで関わりがなかった分野の人たちがどんどん参加してくるきっかけとなる。そう確信させてくれるような話を聞けた。
極限状態でのバランスのはなし
極地建築家の村上氏は、今まで様々な閉鎖空間を経験してきた。多くの閉鎖空間を経験してきた村上氏だからこそ言える、非常に興味深い発言があった。
「閉鎖空間では、ギリギリの状態でなんとかバランスをとって暮らしている。そこに、電通の榊氏が紹介してくれた『寿司テレポーテーション』のような新しい技術が入ってくると、たとえそれが自分たちにとって良いものだとしても、今までなんとか保ってきたバランスがいとも簡単に崩れてしまう。」
当然、みんな閉鎖環境をより良いものにしようと新しい技術を開発しているが、それが必ずしも中の人たちにとって良いことではないという、なんとも皮肉な事実に、とても考えさせられた。
私自身、村上氏の発言に思い当たる経験がある。
私が志望校合格を目指す受験生だったとき、成績や試験への不安で、まさに極限状況にいた。
そんな時、ともに受験戦争を戦う友人がしきりに問題集や単語帳を勧めてきた。その友人は、その問題集や単語帳を使って成績がのびていたし、私のことを思って言ってくれているのもわかっていた。
しかし、私は自分なりに計画をたて、自分の中でうまくバランスをとって受験勉強を進めていた。(少なくとも自分の中では)
そんな時に、新しい参考書を勧めてきた彼に私はひどく嫌悪感を抱いてしまった。結局それが原因で彼とはギクシャクした関係になってしまった。
極限の状態でやっている人はなんとかやっていこうとバランスをとるのに必死なのだ。
良いことと分かっているのに拒否してしまう。そんな経験、君にもないだろうか。宇宙に行くのは僕らと同じ人間である。時には理性的な判断ができない時もある。閉鎖空間という極限の環境ならなおさらだ。宇宙での暮らしを考える際、人間のそういった側面を無視していてはいけないんだと、自らの経験と照らし合わせて学ぶことができた。
宇宙を志す中高生へ
今回の記事で紹介したように、今まで宇宙とは関係ないと思われていた様々な業界が、食というテーマで関わりあっていることがわかってもらえたと思う。君の興味のある、あんなことやこんなことも、どこかで宇宙との繋がりを持っているかもしれない。いや、その繋がりを創り出すのは君たちかもしれない。