【うちゅうけん!20号スピンオフ】世界初!宇宙マウス誕生@山梨大学 若山研究室(前編)
TELSTAR 20号『うちゅうけん!』コーナーで紹介させていただいた山梨大学発生工学研究センター若山研究室。
国際宇宙ステーション(ISS)をテーマにした20号では、研究の1つである、ISSを利用した「宇宙マウス誕生までの研究」という、あくまで「宇宙」に関する内容に絞って紹介しました。
本記事では、20号に掲載することができなかった研究内容や背景、研究室の雰囲気、先生の趣味に至るまで、TELSTAR WEBにて前編・後編に分けて、どしどし紹介していきます!
取材日:2018/10/05
敢えて”宇宙”以外を紹介してみた。
―研究内容についてお聞かせください。
若山照彦先生(以下、照彦先生):
僕たちは大きく2つの研究をやっていて、ひとつはクローン、もうひとつは顕微授精をテーマにやってます。
クローンの方から説明するね。クローン技術というのは、例えば動物の皮膚とか、体のどこかの細胞から、赤ちゃんをつくる技術。その技術を用いて、最初にクローンマウスをつくったのが20年前だね。
―世界ではじめてだったんですよね?
照彦先生:
うん。マウスに関しては世界で初めて。哺乳類でいうと2番目なんだけどね。
―世界で初めてといえば、クローン羊のドリーですよね。
照彦先生:
そうそう、よく知ってるね。ドリーが誕生した翌年にクローンマウスの作製に成功したんだ。
―もしも、若山先生のクローンマウス作製成功があと1年早かったら、「世界で初めて」ということで、世界中からもっと注目されていたんでしょうね。惜しい。。。
照彦先生:
いや、実はクローン羊誕生を知ってから、クローンマウスをつくろうということになったんだよね。というのも、僕はもともとクローン技術を持っていたんだけれど、20年前の教科書には「哺乳類のクローンは作製不可能」って書いてあったわけよ。当然、教科書に書いてあることを信じていたから、当時実験をやらなかったんだ。
―できないことが分かっていたら、実験をやろうと思わないですよね。。。
照彦先生:
そうそう。だから、クローン羊が誕生したというニュースは衝撃だったんだ。
このニュースで「哺乳類のクローンが作成可能」ということが分かって、既に同じ技術を持っていた僕は、クローンマウスをつくることに成功したんだ。
―クローンをつくる目的って何ですか?
照彦先生:
僕たちが研究室でクローンをつくっている最終的な目的は「家畜のクローンをつくる」ってこと。
―食料問題を解決するためですか?
照彦先生:
それももちろんそうなんだけど、もっと簡単に言うと、スーパーに並ぶ和牛のお肉の値段を安くできたらいいなって。売っている和牛とかは、生まれた赤ちゃんの中から質の高い赤ちゃんだけを選んで売られるから必然的に値段が高くなってしまう。そこでクローン技術を使い、美味しいとわかっているお肉から同じ品質の牛をつくる。こうすれば、美味しい和牛のお肉を安くスーパーで売ることができる。これはもう理論的には間違いない。あとは、お客さんがクローン牛のお肉を食べるか食べないか次第だね。
―なるほど、技術が確立すれば絶対に安くなるんですね。
照彦先生:
そう。ただ、今のところ成績が低すぎてまだまだ実用化は難しいんだ。だから、クローン作製の成功率を高くするというのが僕らの1つの目標になってる。だけど、この成功率にこだわっていては先に進まないので、他にもクローン技術を用いた応用的な研究もしてるんだ。今回は3つ紹介するね。まず、クローンからクローンをつくる研究。何故こんなことをしたのかというと、例えば、写真をコピー機でコピーしたら、少し画質が悪くなるよね?その画質が悪くなったコピーをコピーしたら、もっと画質が悪くなる。では、クローンからクローンをつくったらどうなるんだろうってなったわけ。クローンマウスの体細胞から細胞採ってきてクローンマウスをつくる。そのクローンマウスの細胞からまたクローンをつくるっていうのを繰り返したら、段々しっぽが短くなったり、手が無くなったりとか、するかもしれないし、しないかもしれない。でも、誰もやったことがないから分からない。で、僕らは実際にやってみたんだ。
―ど、どうなったんですか?(ゴクリ)
照彦先生:
20回やっても全然問題なくクローンマウスが生まれるという結論が出たんだ。今も続けてて、42回、つまり42世代目まで生まれているよ。
―クローンからクローンをつくっても問題なく生まれるんですね。
照彦先生:
うん、この研究からコピーによる異常や変化みたいなものが無いって分かったね。次は、絶滅動物のクローンがつくれるかどうかという研究。ただ、絶滅動物マンモスのクローンなんてマンモスがいなきゃできない。だから僕らはマウスをモデルにして、できるかどうか試してみた。やったのは、16年間冷凍保存されていたマウスの死体からクローンがつくれるかという実験。この実験をするまでに、クローン動物の実験は世界でもいっぱい行われていたけれど、死んだ細胞からクローンをつくることはしていなかったから、結果がどうなるのかだれにもわからなかった。蓋を開けてみると赤ちゃんは生まれて、死体からでもちゃんとつくれますよってことが分かったんだ。16年間も冷凍庫で凍っていたマウスの死体からでもクローンをつくれたんだから、マンモスも不可能じゃない...かもしれない。マンモスが絶滅したのは数万年前だけどね。
―もしも恐竜のクローンもつくることができたら、ジュラシックパーク開園も現実になるかもしれませんね。
▲若山研究室のゼミの様子。ひとりの学生の発表を、他の学生も先生も真剣に聴いていました。
照彦先生:
最後は、絶滅動物じゃなくて絶滅危惧種のクローンの研究。絶滅危惧種はまだ生きていて、保護されているから、細胞を採ろうとしてケガをさせることができない。ケガをさせたショックで死んじゃうかもしれないしね。じゃあ動物を傷つけずに細胞をどうやって採ろうかってことで思いついたのが、おしっこ。おしっこの中には膀胱とか尿管の内側の細胞が含まれているから、それを回収してクローンをつくってみたの。そしたら、おしっこからもちゃんとクローンが生まれました。
―おしっこに含まれる細胞からでもクローンがつくれるんですね。
照彦先生:
これを発表した当時、検尿で回収された尿から自分のクローン人間がつくられてしまうのではないかって、凄い話題になってたね。
若山清香先生:(以下、清香先生)
世間の反応はそんな感じだったね(笑)
―アイデアはいろんなところから出てくるものですね。
照彦先生:
その発想は僕らには思いつかなかった(笑)こんな感じで僕らは、クローン作製の成功率をあげることとクローン技術の応用をいくつか研究している。以上がクローンの話。次は「顕微授精」の話。
顕微授精やマイクロマニピュレーターについては、TELSTAR vol.20で解説しているので是非確認してみてください!不妊治療についてもWEB検索するとわかりやすく解説されているWEBサイトがあるので、興味がある人は調べてみよう!
照彦先生:
顕微鏡の中で受精させるって意味で「顕微授精」といいます。顕微授精は体外受精とともに不妊治療法として採用されているんだ。今や世界中、日本にも不妊治療専門の病院がたくさんあって、カップルでいうと、6組のうち1組は不妊治療を受けている時代になっているみたいだね。
ー不妊治療がだいぶ一般的になってきているんですね。
照彦先生:
うん。で、その不妊治療で扱う精子や卵子は液体窒素の中で保存されているんだけれど、管理するのに手間がかかるというデメリットがあるんだよね。液体窒素って自然に気化して無くなっちゃうでしょ?精子や卵子が死なないように、液体窒素を定期的に補充しなければならない。だから維持コストが必然的に高くなってしまう。じゃあどうやったら維持コストが安く済むかなって考えた結果辿り着いたのが、インスタントコーヒー。インスタントコーヒーは室温で保存ができる。だったら精子も室温で保存できるフリーズドライ精子をつくろうって。そういう考えでやってみた。
―なるほど。そうすれば液体窒素で保管する手間が省けますね。お湯をかけたら3分待つんですか?カップ麺みたいに(笑)
照彦先生:
フリーズドライ精子は3分も待たなくていいんだけどね(笑) ホントそんな感覚で思いついたアイデア。でも精子をフリーズドライにすると、頭部がボロボロになって死んじゃうから、これも今まで試す人はいなかった。そこで僕らは、クローン技術でも使用するマイクロマニピュレーターで、マウスの卵子にフリーズドライ精子を入れてあげると、無事に赤ちゃんが生まれたんだ。この実験が成功したから、精子をフリーズドライにすれば室温保存可能ってことを示せたの。もう20年前(1998年)の話なんだけども。
―は~、精子もフリーズドライ化できるんですね。では、そのような実験をしている若山研究室がどうしてJAXAと協力して、宇宙実験をすることになったのでしょうか?