株式会社HIREC │ 宇宙開発の成功をかげで支える「信頼性」という仕事。魔法の半導体と人づくりの挑戦とは

はじめに
巨大な炎を噴き出し、轟音とともに空へとのぼっていくロケット。その姿は、何度見ても私たちの胸を熱くさせます。しかし、その華やかな打ち上げの裏側には、常に「失敗」という大きなリスクがひそんでいます。たった一つの部品の不具合が、何年もの歳月と莫大な費用をかけて積み上げてきたプロジェクトを、一瞬で水泡に帰してしまう。それが宇宙開発の厳しさです。
そうした過酷な宇宙開発の現場において、日本の宇宙開発が数々の成功を収め、世界から高い評価を得てきた背景には、「信頼性を支えるプロフェッショナル」の存在があります。この記事では、宇宙開発を支えるプロフェッショナル集団・株式会社HIREC(以下ハイレック)*1 の取り組みを紹介します。日本の宇宙開発を影で支える、情熱に満ちた仕事をのぞいてみましょう。
*1 HIREC:宇宙機や部品の信頼性・品質保証などを支える企業。JAXA関連の宇宙開発を技術面から支援している。
インタビュー相手
株式会社HIREC 代表取締役社長
上森 規光さん
ご経歴:JAXA(宇宙航空研究開発機構)にてワシントン駐在所長、有人安全審査会議長、有人推進部長、安全信頼性推進部長などを歴任し、JAXAを定年退職後、ハイレックの社長に就任。現在は、従来の宇宙用部品の製造・販売やJAXA宇宙機の信頼性・品質保証業務に加え、国産FPGAの開発や新たな信頼性・品質保証サービスなど、新規事業の立ち上げを積極的に主導している。
株式会社HIREC 上級技師
大園 勝博さん
ご経歴:大手半導体メーカーにてデバイス技術者として宇宙用LSI(集積回路)*2 の製造・設計に従事後、ハイレックへ入社。現在は同社にて技術面や人材育成を統括している。
*2 LSI:たくさんの電子回路を一つの小さなチップにまとめた部品。宇宙用LSIは、強い放射線や大きな温度変化に耐えられるように作られている。
ハッピーファーム合同会社 代表
五嶋 耀祥さん
ご経歴:苫小牧高専出身の元システムエンジニア。2015年からNPO活動を開始し、2019年のビジネスピッチ入賞を機にハッピーファーム合同会社を設立。ハイレックと連携して北海道でのリクルート支援や人材育成、スタートアップ支援を行っている。
右:五嶋さん、左:上森さん
右:五嶋さん、左:大園さん
宇宙開発の「信頼性」を支える、縁の下の力持ち
宇宙空間は、私たちが暮らす地上とは全く異なる過酷な環境です。強力な放射線が飛び交い、昼と夜の温度差は数百度にもなります。そんな場所では、一度打ち上げたら修理に行くことはほぼ不可能です。一つのミスが大事故につながることすらあります。そんな宇宙開発を、より安全で、長く続けるのに重要となるのが、「信頼性・品質保証」です。
【信頼性・品質保証とは?】
部品が故障しないか、システムが途中で停止しないか。あらゆるリスクを事前に予想し、設計に反映することで、ミッションの成功確率を最大限に高めるお仕事。
この「信頼性・品質保証」を専門とするのが、ハイレック社です。JAXA(宇宙航空研究開発機構)で長年、安全や信頼性に関わる業務に携わってきた上森社長をはじめ、同社には宇宙開発の最前線を知り尽くしたプロフェッショナルが集まっています。その存在は、宇宙ミッションにおける「最後の砦(とりで)」とも言えるでしょう。
上森社長は、自社の役割を次のように語ります。
「僕たちの会社は、プロジェクトをやりたい人たちの下支えになるような存在なんです。そういう人たちを後ろから支えて事業が成功すること、それが僕たちの役割です。」
ロケットや衛星を作りたいという「キラキラした」夢を持つ人たち。その挑戦が、単なる夢で終わらないように、確かな技術と徹底したチェックで支える。それがハイレックの仕事です。
それは単に失敗を防ぐだけではありません。揺るぎない「信頼性」という土台があるからこそ、開発者たちはより大胆に、より困難なミッションへと踏み出すことができるのです。
宇宙で「化ける」!?ミッションの危機を救う魔法の半導体
そんなハイレックが今、特に力を入れているのが「国産FPGA(Field-Programmable Gate Array)」の開発です。これは、日本の宇宙開発の未来を大きく左右する可能性を秘めた半導体技術です。

図1:FPGAのイメージ
【半導体とは?】
電気を通したり通さなかったりする性質を持つ材料のこと。これを利用して、計算・記憶・命令といった処理を行う、コンピューターの「脳」のような役割を果たします。
【FPGAとは?】
「Field-Programmable Gate Array」の略。簡単に言うと、「あとからプログラムを書き換えることができるコンピュータチップ」のことです。
このFPGAの最大の特徴を、開発を担当する大園さんは「化ける」という言葉で表現します。一度プログラムを書き込んでしまったら中身を変更できない従来の半導体とは違い、FPGAはあとから中身を書き換えることが可能で、状況に応じてその役割を自由自在に変えることができるのです。
この「書き換え可能」という特性には、大きく分けて2つのメリットがあります。
開発が速い
従来の半導体は、専用の設計図を作り、工場で一から製造するため、長い時間と莫大なコストがかかっていました。一方、FPGAなら、すでにあるチップにパソコンからプログラムを書き込むだけで試作が可能です。
宇宙でも修正できる
これがFPGAの最もすごいところです! 通常、人工衛星は一度打ち上げてしまうと直接修理することはできません。でもFPGAなら、宇宙にいる衛星に地上から新しいプログラムを電波で送り、動きを変えることができます。もし宇宙で思わぬトラブルが起きても、「動き方を変えて乗り切ろう」という指示が出せれば、ミッションを続けられるのです。
上森社長は、小惑星探査機「はやぶさ初号機」を例に挙げてくれました。「はやぶさ1」は、4つあるエンジンのうち1つが故障する危機に見舞われました。 「もしFPGAを積んでいれば、『これからは3つのエンジンでうまく動かす』という新しいプログラムに書き換えて、より確実にピンチを救えたかもしれません」
北海道が宇宙産業の新たな拠点に?
ただし、どんなにすごい技術でも、それだけでは意味がありません。 大切なのは、「技術をつくる人」と「技術を使いこなす人」。つまり、人の力です。 だからこそ、ハイレック社は次の挑戦の場所として、「北海道」を選びました。
今、北海道では次世代半導体の工場建設が進み、半導体産業と半導体人材育成が大きく盛り上がっています。「宇宙×(かける)半導体」の企業であるハイレックはこの流れを宇宙産業につなげたいと考えています。 そこで、北海道の宇宙ビジネスを盛り上げている五嶋さんと協力し、若い世代のためのFPGA教育プログラムやイベントを企画・実践しています。
「北海道では、多くの地域で人口が減ってきています」と五嶋さんは話します。 新しい産業と、若者が「ここで働きたい」と思える仕事が生まれれば、それは日本の宇宙産業を前進させるだけでなく、地域の未来を守る力にもなります。 技術はただモノを作るだけでなく、人を育て、地域を元気にし、社会を明るくする力を持っているのです!
まとめ:君の未来と宇宙をつなぐ「信頼性」の視点
宇宙開発の成功を支える「信頼性・品質保証」という仕事。それは、決して表舞台に立つことはないけれど、ミッションの成否を左右する「縁の下の力持ち」です。そこには、熱い想いを持って働くプロたちがいます。
宇宙で「化ける」魔法の半導体FPGAは、トラブルからミッションを救う切り札となり、その技術は北海道の地で新しい産業を生み、未来を担う人を育てようとしています。
宇宙機を作る人、飛ばす人、そしてそれを支える人。宇宙に関わる仕事は、私たちが想像する以上に多様です。この記事をきっかけに、あなたも新しい技術や「宇宙開発を支える仕事」を、将来の進路の一つとして考えてみませんか?
関連リンク
- HIREC株式会社 公式ウェブサイト
宇宙機の信頼性・品質保証、国産FPGA開発、宇宙用部品技術など、HIREC社の事業内容について詳しく知ることができます。 - 【プロローグ】宇宙の知で、社会の負荷を減らしたい~ 【連載】宇宙ビジョンクリエーター 五嶋 耀祥の『宇宙人』と話そう(Japan STEP)
HIREC社の取り組みや、「宇宙技術を社会へ活かす」という考え方について紹介しているインタビュー記事です。

- 【2024年8月30日放送アーカイブ】HIREC株式会社 presents「子育ては宇宙。」
HIREC社の人づくりや挑戦への想いを知ることができるラジオ番組アーカイブです。 - 【2025年09月12日①放送アーカイブ】HIREC株式会社 presents「子育ては宇宙。」
宇宙開発や教育、人材育成について語られているラジオ番組アーカイブです。
取材・文責:千葉俊彦






