【22号うちゅうけん!スピンオフ】再生医療で宇宙の食料問題を解決!?
TELSTAR22号うちゅうけん!のコーナーでは、東京女子医科大学清水達也先生に取材させていただきました。TELSTAR22号では載せられなかったお話をどんどん紹介していきます!
取材日:2019/8/22
再生医療で活躍中、細胞シートとは?
「再生医療ってなに?」
一口に再生医療と言っても、大きく分けて2つの学問があります。1つは細胞から組織を作るときの材料をどうするかという学問で、ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥先生のiPS細胞はここに当てはまります。もう1つはどのようにして組織を作るか考える学問です。清水先生が研究しているのは2つ目の学問で「ティッシュエンジニアリング(組織工学)」と呼ばれています。
「組織の様々な作り方」
これまでに、細胞から組織を作る様々な方法が考えられてきました。今回はその中から4つの方法を紹介します。
1. 高分子材料を用いて三次元的なスポンジ状の細胞足場を作製し、そこに人の細胞をいれていく方法。この手法は広く用いられてきました。
2. 細胞とゲルを混合させたものを型に流し込む方法。比較的柔らかい組織の作製に有効な方法です。
三次元的に並べられますが、並べた生きた細胞をどのように固定するかが課題となっています。
*細胞シートを使って、立体組織である培養肉を作る試みはすでに始まっています!詳しくは「TELSTAR22号うちゅうけん!」へ!
「細胞シートってなに?」
先ほど紹介した方法は生物由来の材料や、人工的な材料を用いています。このような異物がある場合、問題が起きる原因になり、細胞密度が高い心臓などの臓器は作るにはハードルがあります。これらを使わずに組織を作る方法として生み出されたのが、細胞シートです。清水先生は、細胞シートを少しずつ重ねていくことによって、立体組織を構築することを目指しています。さらに、細胞シートは臨床でも広まっています。例えば、心臓の手術を行うとき細胞シートを心臓の治療部分に乗せるだけで、弱った心臓の筋肉を元気にすることができます。細胞シートは患者自身の細胞から出来ていて、安全で簡単に扱うことができるので、臨床でも重要な役割を果たします。
▲四角形の細胞シート
出典:東京女子医科大学
「細胞シートの特殊な培養方法!」
では、その細胞シートはどのように作られるのでしょうか。細胞シートは、二次元的に細胞を培養したものですが、この培養方法に工夫があります。一般の培養皿で培養された培養シートは、タンパク質によって細胞同士がくっつき、培養皿に張り付いてしまいます。これをタンパク質を溶かして取り出そうとすると、細胞同士もバラバラになりシートが作れません。細胞をシート状にしたまま回収するには、「温度応答性培養皿」という特殊な培養皿を用います。これによって細胞同士をくっつけたまま、温度を変化させるだけで培養皿からシートを取り出すことが可能になりました。
宇宙と関わる企業!
これからの宇宙での快適な生活を考え、培養肉製作に関わる企業やプロジェクトを紹介します。
▲写真右:インテグリカルチャーの羽生社長
「インテグリカルチャー」
大量培養細胞技術を開発し、安価な培養肉を用いたライフスタイルの実現を目指している企業です。インテグリカルチャーの羽生社長は宇宙好きで、同じく宇宙好きな清水先生と意気投合し、研究所で共に培養肉研究をするようになりました。清水先生はこの企業と提携して「(*)藻類・動物細胞共培養リサイクルシステム」を切り開こうとしています。インテグリカルチャー社は、体内と同じ仕組みで体外で人工的に細胞を増やす、カルネットシステムを開発しています。
(*)「藻類・動物細胞共培養リサイクルシステム」については「TELSTAR22号うちゅうけん !」のコーナーで紹介しています!まだ読んでいない人は電子書籍へ!
▲リアルテックファンド社の小正さん
「リアルテックファンド」
人類や地球の課題解決に挑戦する、リアルテックベンチャーに投資をする企業です。この会社の宇宙担当の小正さんが、インテグリカルチャーに投資をしています。
▲SpaceFoodXのイベント
「SpaceFoodX」
先ほどの小正さんが代表を務める、宇宙空間で快適に食を楽しむ未来を目指したプロジェクトです。清水先生も同様に宇宙の閉鎖空間で食料開発をしようとしていると小正さんに伝えたところ、ぜひ仲間になってほしいとの誘いがあり、SpaceFoodXに参加しました。
*SpaceFoodXのイベントに実際にTELSTARメンバーが参加しました!SpaceFoodXが考える2040年の食卓とは…?詳細はこちらのリンクから!
実は、今紹介した羽生社長と小正さん、そして清水先生に共通するのは
『宇宙が好き』
ということです。
好きな宇宙を語り、やりたいことを伝えた行動が、長年想い続けた宇宙を仕事にするという結果に繋がったと言えます。
清水先生へインタビュー!
「Q,どうして宇宙に関わろうと思ったのですか?」
実は、高校生の頃の夢は宇宙飛行士でした。しかし、当時は宇宙飛行士になるための条件は厳しいと思い断念しました。31歳の時に、今までは医師としてやるべき道が引かれていたけど、この先どういうふうに道を歩こうかと思い悩みました。そこで再び、宇宙飛行士の夢を叶えようと決心したのですが、家族のことを考えて再び断念しました。ですが、一度夢を叶えたいという気持ちが出てきたことによって、何か新しい研究がしたいという気になり、そこで細胞シートを積み重ねる研究を見つけて研究をはじめました。元々、宇宙と関わりたいと考えていて、宇宙に関連した仕事をできるようになったので、想い続けることは大事だと感じました。
▲清水先生は宇宙戦艦ヤマトの大ファン。自室には遠隔操作ができる宇宙戦艦ヤマトのモデルがありました!
「Q,これから取り組もうとしていることはありますか?」
やりたいと思っていることの1つに医療教育があります。多くの患者はちょっとした不安から病院に行き過ぎているのが現状です。そのため、検査や薬を処方してもらうのに医療費がかなりかかってしまっています。そこで、心電図や超音波などの検査や薬剤の処方といった場面にAIを導入することで、医師がいなくても自宅などで簡便に検査や処方が出来てしまえばいいのではないかと考えています。そのような状況を実現するためには、人々への医療装置の扱いなどに関する教育が必要です。医療知識や装置の取り扱いを資格という形にして、多くの人が医療に携わるような仕組みを作る必要があると思います。
学生さんにインタビュー!
東京女子医科大学の研究室で研究をしている、早稲田大学院先進理工学研究科生命理工学専攻 戸部友輔さんにお話を伺いました。
「Q,ここで研究をしようと思ったのはなぜですか?」
元々は工学専攻でした。大学1年の時に心筋細胞シートの動画を見て感動するとともに、専攻分野が違っても生命分野に関われることを知り、この研究をしたいと思ったのがきっかけです。配属を目指して1年生の頃から勉強し、今は無事に配属が決まって日々研究を続けています!
*今回取材したのは、東京女子医科大学と早稲田大学による共同研究所「東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設」です。東京女子医大のT、早稲田のW、Institutionを組み合わせて通称「TWIns(ツインズ)」と命名されました。
編集後記
今回のWEB記事は、いかがでしたか?清水先生は「夢と信念」をモットーに掲げています。自身のやりたいことを最後まで貫く姿勢は、どんな人にとっても必要です。宇宙に関わる方法はたくさんあります。ぜひ、みなさんの好きなこと、やってみたいこと、宇宙と絡めてみてください。新しい発想が生まれるかもしれません!