ストレスを予防する!?宇宙で心の健康を守るには?
宇宙でのストレス?
皆さんは宇宙滞在が人に与えるストレスといえば、何を思い浮かべますか?
宇宙環境には、宇宙放射線・無重力・閉鎖的環境などの宇宙特有のストレス、言わば宇宙ストレスが存在します。宇宙ストレスには、筋力や骨の強度の低下などの物理的影響を与えるもの以外に、うつ症状を引き起こすなどの精神的影響を与えるものも含まれています。ISS(国際宇宙ステーション)での長期滞在が実現している現在、宇宙ストレスのなかでも『心』にかかるストレスを予防・解消する方法が模索されています。
ストレスの原因
そもそも生物はなぜストレスを感じるのでしょうか?実は、人がストレスを感じる機構の一つに、遺伝子が関係しているものがあります。数ある遺伝子の中でも、多くの生物が持つ『Nrf2遺伝子』は、ストレス感受性に重要な役割を担っています。
宇宙での実験!
2018年4月、金井宣茂宇宙飛行士はISS内きぼうモジュールにて、宇宙ストレスと遺伝子の関係を調べる生体実験を行いました。
この実験では、Nrf2遺伝子を失くし、ストレス耐性を低くしたマウス(遺伝子欠失マウス)6匹と、ストレスに通常反応を示す比較用のマウス(野生型マウス)6匹の計12匹がISS内で31日間飼育された後、全個体が地球に生還しました。ISS内でのマウス実験は、同じ哺乳類であり、病状の似た人が宇宙での長期滞在を目指す上で、非常に重要です。なかでも遺伝子欠失マウスの長期飼育実験は難しく、全個体の生存帰還は世界初でした!
小動物飼育装置で、マウス実験を行う金井宇宙飛行士
Image Credit:JAXA
実験の成功により、遺伝子欠失マウスと人のストレスに起因する疾患との関係解明の糸口を得ることが出来ました。宇宙ストレスが与える『心』への影響を、遺伝子レベルで予防することも夢ではなくなりました。ストレスフリーの宇宙旅行が、将来実現するかもしれません。更に実験は宇宙ストレス対策だけでなく、地上でのうつ・認知症などの『心』へのストレスが大きな原因となる疾患の解明や、治療薬の開発につながる可能性を秘めています。
遠く離れた宇宙で育った小さなマウスが、人の快適な宇宙滞在、更には地上での身近な疾患の解明に大きく役立っているのです!