専門家に聞く、スペースコロニーの話
図1 ルナグラスのイメージ図(©鹿島建設)
ルナグラスとは
普段は意識しませんが、重力というのは、私たちが生きていくために必要不可欠なものです。しかしながら、地球から一歩外へ出てしまうと、地球の重力は当たり前のものではなくなってしまいます。その問題を解決し、月や火星、さらにはその遠方で生活できるよう、考案されたのがルナグラスです。ルナグラスは、回転することによって遠心力を生み出し、それと重力の合力により1Gを保ちます。映画などで見るコロニーとは全く違った形をしていますが、人間が生活していくために考え出された最先端のコロニーなのです。
構想を思いついた経緯はどういうものですか?
小学生の頃、雑誌で宇宙に住めるという記事を読み、低重力(注1)の問題について考えたことが最初のきっかけでした。宇宙空間に浮かぶコロニーのような場所ではなく、月面や火星上のコロニーの必要性を感じていたんです。大学生の頃流行ったF1(注2)が、この構想にヒントをくれました。カーブを曲がるとき、ドライバーは遠心力(注3)と重力の合力を受けます。これと同じことをコロニーでも起こそうという考えが浮かびました。見かけの重力で低重力の問題を解決し、月面や火星上のコロニーを実現しようと思いました。
(注1) 自由落下に近い環境で、物体の受ける加速度が小さいこと。
(注2) Formula one の略。自動車レースの世界選手権の一つ。
(注3) 下図
月面で適応される建築法はありますか?
現在地球では建物を建てる際に建築基準法(注1)を遵守します。同様に月面でも建築物の基準を定める必要があります。しかし、月の環境は地球の環境と異なるため、建築法と同様の基準法がそのまま月でも適応することは難しいと考えられています。例えば、建築基準法では1.1mが手すりの高さと決まっていますが、宇宙では簡単にその高さを飛び越えてしまいます。このような場合、現行の法律は月面環境に適していません。
では、月に適合する建築法を作るにはどうしたらいいと思いますか。それは、月面での基本的な物体の挙動を設計側が身を持って確認することです。月面の重力は地球の1/6倍であるため、地球での経験則を参考に月での運動を考えることは難しくなります。そのため、月での物体の運動を詳しく観察することが、月に適した建築基準法を作るうえでとても重要になるのです。
しかし、以上のことが達成できたとしても、月に適応する建築法にはまだ課題点があります。所有者のいない宇宙で誰が建築法を作り、誰がその法の効力を与えるのかが大きな問題となります。この問題が最初に解決されない限り、月面に住む人の安全を保障する建築法ができるまでには、多くの時間を要する可能性があります。
(注4)建築する人が建物の安全性・衛生状況の保障をするために遵守する法律
木星で1Gの環境を作る?
月や火星以外の天体への進出については、木星で1Gの環境を作れないかということを検討をしています。系外惑星が次々と見つかっていますが、現在見つかる惑星はサイズが大きいことが多いです。そのような天体に人類が進出する時にも1Gの環境で暮らせるよう予行練習として検討しています。表面の重力加速度が大きく、さらには地面のない天体でどのようにして1Gの生活環境を作るというのでしょうか。
検討している方法の一つに軌道上でテザー(ひも)を用いるという方法があります。図3左に示すように、惑星を周回する人工衛星は重力と遠心力が釣り合うことにより内部が微小重力状態になります。つまり、より重力が大きい低い軌道を周回する衛星はより速い角速度で周回し、慣性力が大きくなります。図3右のようにテザーを用いて様々な高度の軌道の人工衛星をつなげてみるとどうでしょうか?すべての人工衛星は繋がっているため同じ角速度で周回しようとしますが、その高度により重力と慣性力の大きさは異なります。その差を用いて1Gを作ろうというのです。
アルテミス世代へ一言お願いします!
アルテミス世代は目の前の日常と将来のことの両輪のように思います。目の前のことだけ考えていたら、知らないうちに自分の生きる場所が無くなってしまうでしょう。逆に、遠くばかり見ていて、晩御飯が食べられなくなるのもよくありません。両方を見て生きていくことが大切だと思います。物理は宇宙での共通言語と言えるでしょう。物理を使えば宇宙人とだって話すことができるはずです。世の中の基本的な原理は物理学で出来ています。特別勉強する必要はないと思いますが、身の回りの現象に疑問を持つことは必要でしょう。アルテミス世代の方々にはこういった「疑問」を頭の片隅に留めながら、日々過ごしていただきたいですね。
こちらの記事は2023年より新しくTELSTARに入ったメンバーたちによる 記事です。 TELSTARでは一緒に活動してくれる大学生の方を随時募集しております。 興味のある方は、TELSTARホームページの「お問い合わせフォーム」または、TwitterのDMなどから ご連絡ください。