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「宇宙ベンチャーの時代 経営の視点で読む宇宙開発」-前編ー

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©「宇宙ベンチャーの時代 経営の視点で読む宇宙開発
著者:小松伸多桂さん 後藤大亮さん



宇宙開発は、これまでの政府主導の宇宙機の開発から、民間企業が主導権を握る「ビジネス」として生まれ変わりつつある。

この流れを加速する転換点となったのは2021年。アメリカの起業家、イーロンマスク氏が率いるスペースX社をはじめとした複数の企業が宇宙旅行を成功させたことで、この年は「民間宇宙ベンチャー元年」と称される。

本著書では、宇宙開発スタンダードの大転換のトリガー・秘密は何なのか、ベンチャー・キャピタリストの小松伸多桂さん、JAXAのエンジニアの後藤大亮さんが経営の視点から紐解きます。



1.書籍の目次



第一章 宇宙ビジネス概観

第二書 3つの導線

第三章 3つの革新

第四章 宇宙ビジネスの注目8分野

第五章 政府事業から民間商業へ

第六章 スペースXが「宇宙ベンチャーの雄」となりえた理由

第七章 高い株価

第八章 動く日本

第九章 リスクとどう向き合うか

 


2.インタビュー


「宇宙ベンチャーの時代 経営の視点で読む宇宙開発」の著作である、小松伸多桂さん(イノベーションエンジン)、後藤大亮さん(JAXA)への取材を通じて、経営の視点から今後の宇宙開発について紐解きます。

本記事は、前編・後編の二部構成とし、前編では、自身の専門や興味を宇宙と繋げる方法、今後求められる経営者像と経営スタイルについて迫ります。


(左:小松伸多桂さん 右:後藤大亮さん)


TELSTAR:

本書がどのような本であるか、簡潔にご紹介ください。



小松さん:

これまで政府が主導していた宇宙開発の分野は、今、民間企業がイニシアチブをとった「ビジネス」として急速に生まれ変わりつつあります。しかし一般の多くの方々は、様々な疑問を抱きながら半信半疑でいるのが正直なところではないでしょうか。

「どうして民間宇宙旅行が急に実現したの?」、「危なくないの?」、「いくらかかるの?」、「宇宙ビジネスなんてもうかるの?」、「どんな種類の商売があるの?」、「大企業よりベンチャーの方が強いの?」

こうした素朴な疑問に一定の答えを出すのが、本書の目的の一つです。本書は、一冊読んでいただくだけで、宇宙ビジネスのAからZまでをコンパクトにご理解いただけるように執筆いたしました。100社を上回る宇宙ベンチャーが紹介されています。



TELSTAR:

自分の興味ある、もしくは専門とする分野を宇宙と結びつける手法。

そしてどのように事業にしていけばよいのか、お聞かせてください。



小松さん:

これまでビジネスとして成り立ってきた宇宙事業は、運賃の負担ができているもの。現時点で宇宙へ行って持って帰ってくるコストを考えると、コンパクトで運賃負担力のあるものから順番にビジネスになります。

今後、たとえば月面開発が進んで人が月に住むようになると衣食住の確保に必要な産業が宇宙に行かなければならない。「宇宙と関わりがあるのは、特定の分野だ」いう発想がなくなって、我々の暮らし自体をそっくりそのまま宇宙に持っていくためにはどうすればいいかという話に発展していくと言えます。

今は宇宙開発とかかわりのある産業分野とそうでない分野とは、明確に区別のある状況になっているけど、 これが急速に境目がなくなってくるのが今の世界なのかなと思っています。

そういう意味では僕はあらゆる業種分野にチャンスが出てくるんだろうなと思っています。


現在の宇宙産業にはエンタメ要素が欠けていると思う。

たとえば宇宙旅行、宇宙ホテルは良いと思うけれど、行ってみた先が24時間ただ単に星や地球を見ているだけでは、お客さんは来てくれない。

現地でのエンタメ、または快適に過ごすためのプログラムみたいなものをちゃんと開発していかなくちゃいけない。

そういった部分は、これまでエンジニアの人たちがあんまり注意を払ってこなかった部分だと思う。これからやっぱり経営者がそこの隙間を埋めていく必要性があって、マーケティングを通じて ユーザーの目線から全部組み立てていくことになると思います。

これからまさに経営者の目線が入って今まで隔絶していた世界の融合が急速に始まって、その中で宇宙でできる仕事、宇宙とかかわりのある分野が 急速に広がっていくっていうイメージを僕は持ってます。



TELSATAR:

経営者に見られる特質のようなものはありますか?



小松さん:

経営者になる人には天才肌と呼ばれる人が多いのも事実です。イーロン・マスクのように生まれつきリスクを取ることをいとわない人。そういった人たちはワクワクして冒険みたいにして仕事をやってる。

それ以外に秀才肌の経営者、たとえば、証券会社とか保険会社とか金融系などでの勤務を経由して経営者になる人もいる。コンサルティングなどを勉強した結果としてビジネスをユーザー目線、要するに市場側から組み立てられる人みたいな感じ。

実は,経営者に圧倒的に多いのは秀才肌。才能が生まれつき備わってる天才肌でないとダメだみたいな感じは僕にはない。逆に失敗しながら学んで成長していく秀才経営者の人を増やしていかないと、国って活性化しないと思います。そのためにいろんな業種を経験してから経営者となるっていうのも僕はいいと思っています。

そしてもう一つ、秀才型は研究者と結びついて経営するのがいいと思っている。 逆に研究者が起業しようとする際は、たまたまその方が天才でない限り経営者視点をもつ人材を獲得する必要がある。

研究者が起業前に企業で経営者視点を身につけるって方法もあるけど、時間が余計にかかってしまうので、結びついた方が早いっていうのが僕の考えです。

 結びつくというのは、経営者と研究者の会話を増やしていくってこと。エンジニア/研究者の方が苦手な視点、たとえば消費者の目線を経営者となる方が補完して、ともに経営していく事がいいと思います。

学生での起業も、この方法がいいと思う。知識なく起業すると過剰に楽観的に考えてしまう傾向がある。知識のあるエンジニア/研究者の方が居るほうが良い。

大企業でも社長さんが全部やることはなくて、 財務担当取締役とか営業担当取締役とかって人たちがそれぞれマーケティングなり財務なりっていうのを担当して役割分担でうまく回ってる。

「今後も、宇宙ベンチャーはイーロン・マスク級の天才経営者でないと務まりませんか?」と聞かれると、答えはノー。破格の天才経営者の一人がいて、その人たちがゼロから無から有を生み出すプロセスは終わっている。
我々のようなベンチャーキャピタルが宇宙産業に投資するってのが当たり前のことになってきてるわけです。秀才経営者が多数現れてきてくれて、我々に優れたビジネスモデルを中期計画説明し、こちらが資金提供するサイクルが出来上がっていく。

ある意味、今後秀才経営者になるポテンシャルのある学生君の皆さんに門戸が開かれてる状態ということは言えると思います。



TELSTAR:


人材という話が出ましたが、起業したい人はまず仲間を集めなきゃいけないと思います。

宇宙系で起業する際、どこで人材を集めてくればいいのか教えてください。



小松さん:


ビズリーチのような転職や人材獲得の手段が発達してきてるけど、宇宙企業でのコアとなる人材と、表現悪くなってしまうのですが手足となって働いてくれる人材とでは層が違うと思います。 

手足となってくれる人はそういうもので繋がることができますが、 コアとなる人材はある程度人脈を介してみんな探してきてるんじゃないでしょうか。


コアの人材っていうのは、知り合いの知り合いのまた知り合いみたいな感じで集まってきてることが多いので、やっぱり一分野だけに閉じて人材を集めようとするとダメで、 色んな所に触覚立てることで集まってくる、自分自身がものすごい人付き合いが良くなくてもいいので、人脈のある方を知ってるかが大事になります。 



TELSTAR:


ビジネスとして成功する確証がなければ人はついてきづらいと思います。

 SpaceWalker社が有翼宇宙船から派生して炭素繊維タンク事業に取り組んでいますが、そのように、宇宙事業以外に収益の基盤を持つことは大事でしょうか?



小松さん:

人を集める上でも大事なことですし、地上でのビジネスとして有効であるとなれば、 投資家がお金を出しやすいというのもありますね。


宇宙旅行ビジネスというのは開発のスパンが長い。 だからゴールへたどり着くまで資金調達を継続させるのは難しい。


投資家の立場から言っても、 そんなに長い間待ってられないので、 最終ゴールまでの間に一回投資資金を回収するプロセスを入れなきゃいけない。

これは最終ゴールを見据える経営者からすると、 なんか寄り道っぽく見えたりするんですけど、 必要なステップです。


その手段が何かは分かりませんし、企業や社会状況によって異なると思いますが、結局は世の中とのインタラクション(相互作用)なんですよね。 宇宙ビジネスの途中段階で世の中に役立つものが生み出せて、 欲しいと思う人が出てきて、人と情報の流れが生まれて、 するとそこでまたビジネスモデルやゴールが変わったりする。そのダイナミックさが重要なんです。 



TELSTAR:


そういった宇宙以外のビジネスが、本命の宇宙ビジネスを評価してもらえる場にもなるんでしょうか? 



小松さん:


そうですね。SpaceWalkerの話に戻りますが、 タンクに興味がある人が寄ってきて、タンクを買ってくるときに、 「えっ、君たちってタンクより先に宇宙をやっていたの」かと気づいてくれる人も、出てくるかも知れないですね。 


でも必ず宇宙以外のビジネスを経由しなければいけないということではありません。アイデア次第では、宇宙一本で勝負することもできると思います。


 僕が経営者にとって一番大事な仕事と思うのは、 要するにリスクの見極めです。 どのリスクを選択するかというのが、最重要かつ経営者にしかできない仕事です。リスクを選択しないビジネスはありえない。


 例えば何もせず現状を維持している場合でも、それは現状維持というリスクを取っているので、 結局何らかのリスクを取り続けるのが経営者。 ところがこのリスクっていうやつはどんどん変化するわけです。 だからそういうリスクをその局面局面でどういう風に取るかの判断を経営者がやっていかなくちゃいけない。 



TELSTAR:


現代は、様々な産業が 宇宙産業に参入してくる過渡期だと思います。

しかし、宇宙産業に進出しようとしても、インフラがなければ始まらないように思います。 宇宙ステーション、輸送用ロケットをはじめ、インフラの多くが、海外の企業頼りで、主導権を外部に預けている状態のように思えます。 

そういった中で、今後宇宙産業へ進出するうえでのポイントがあれば教えてください。



後藤さん:


例えば、ヤマト運輸が未成長の状態で僕のところに投資してくださいって来るとします。 昔は郵パックすらないような時代だったわけだから、 宅配便ってアイデアは便利でいいなと、 素晴らしいビジネスですねって言うと思う。 でも実は高速道路から作らないといけないんですよって言った瞬間に投資は止まる。 


一方で高速道路が既にできていると、すぐに投資のお金が出てくる。インフラ有無で大きな差がつく。今は、 まだ宇宙のインフラが確立していない世界。高速道路から作るんですと言っている時代のヤマト運輸に投資をするかという話に重なります。



小松さん:


そのとおりだと思う。インフラからやりますとなると、出てくるお金は、現時点では極めて限られる。政府や、アメリカのものすごいお金持ちファンドだったら出せるかもしれない。

しかし、高速道路は他の国(人)が作ってくれてるから、 自分は衛星だけ作って飛ばせばいいんだとか、 逆に衛星も他の国(人)から借りてくるから、 衛星データだけ解析すればビジネスになりますみたいな話になってくると、 途端にお金が出てきやすくなるわけです。


これが今の局面。

今後も整えなくちゃいけないインフラもあるでしょう。宇宙ステーションも今後民間のものができて、 月に基地も作られる。 宇宙エレベーターとかも出てくるかもしれない。地上だって衛星との通信基地局とかの整備がある。


ただ、そろそろインフラを別にしてビジネスできる時代に 突入してるんじゃないかなと思っていて、 つまり分業ってのが進んで、 必ずしも大規模投資を伴うものだけが宇宙ビジネスだと 言われなくなってきている。


先ほども言ったように衛星データを使ったビジネスは 自社で衛星を打ち上げなくても済むわけで、 参入障壁も下がったし、 ベンチャーキャピタルからの投資ハードルも下がってきている。


 宇宙ベンチャーの経営者として要求される宇宙技術の知識、経験みたいなものってのも、 もちろんすごく大切ですけれど、 でもやっぱり全体から言えば求められる水準は下がってきている。

すごく起業しやすい環境ってのが、 急速に整っている局面なんじゃないかなってのが僕の受け止めです。



後藤さん:


小松さんのおっしゃる通りで、元々JAXAをはじめ、国主導の宇宙開発はインフラを整えることを目標としている部分がありました。


ここで言うインフラとは、ロケットのような輸送インフラだけではない。ロケットなどを研究開発したりすると 必ず専門家が生まれる。そういう人が世の中にいるっていう状態自体がある意味人材インフラ的な効果がある。


そういった人が集まって新しいベンチャーを作ることもあるし、雇用される以外に、アドバイザーになったりなど、 人材的な効果っていうのもすごい大きいと思います。 


これまで国だけが資金を出していた時代から、ベンチャーがどんどん立ち上がり、 ベンチャーの中で経験積んだ人がさらに出てくることで、人材に厚みが出てくる。

新しいアイデアも出てくる。 その先は小松さんがおっしゃったように、人工衛星のデータを使ったサービスなど、新たな切り口で新しいベンチャーが生まれるということだと思います。


集まるお金だったり人材が更に増えていって、 さらに参入可能なアイデアや人が出てくるという期待がもてる。 



小松さん:


今までは自分でインフラ作らないと宇宙ビジネスって言えないと思われてきたけど、 もうインフラを他の人たちが作ってくれる世界に突入しているので、 その他のところでどのようにビジネスを作っていくかという発想で、みんなが宇宙と関わるようになってくると、視野が広がるはずです。 これもできる、あれもできるって感じですよね。




後編では、書籍を通じて、中高生の方へ届けたいメッセージ、今後発足されるかも知れない、宇宙×経営のコミュニティーについて迫ります!





書籍詳細:https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334046538

Amazon URL : https://www.amazon.co.jp/dp/4334046533




取材:千葉俊彦、小山歩  文:千葉俊彦

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