宇宙を切り拓く管理栄養士(前編)
港屋ますみさん
宇宙飛行士のミッション成功には、宇宙という特殊な環境で最大限の力を引き出すための栄養管理が不可欠です。今回は、日本人として初めて、宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)における栄養管理を担った、港屋ますみさんにお話を伺いました。前編・後編に分けてお届けします。
日々の業務について
一日の業務の流れは、出勤後に始まるメールのチェック、健康管理上の問題のキャッチアップ、資料の取り寄せ、会議の準備などが主となっています。午後に宇宙食の試食が入ることもあるそうです。
日本人宇宙飛行士がISSに滞在中は、毎日連絡を取れるわけではなく、週1回のレポートとそれに対するフィードバックをフライトサージャン(飛行士の健康管理を行う専門医)を通じて行います。また、ISSに滞在していないときには、搭乗前の準備や栄養管理の進行状況のチェックを行います。
やりがいについて
業務で最もやりがいを感じるのは、「誰もやってこなかったことに携わる」ことだと言います。特に宇宙の栄養管理という未開拓の分野に挑戦しているところに、大きな魅力とプレッシャーを感じるそうです。さらに「飛行士の活動を深く知るほど、その人を支えたいという思いが強くなる」と語りました。
苦労した点について
JAXAに港屋さんが着任する前後で、宇宙飛行士の栄養管理体制に変化があったと言います。港屋さんの着任前、すでにJAXAに栄養士は在籍していたのですが、その役割は主に地上での生活時の栄養管理に留まっていました。しかし着任後、その範囲は軌道上で生活している時の栄養管理まで拡大されました。日本の宇宙食だけではなく、NASAの食品も詳しく見て研究し、栄養価を見て組み合わせモデルプランをいくつか提示するのです。
そこで、港屋さんが最も苦労した点として、「野口飛行士の一番最初の栄養管理の際、何をどう準備するのか、誰に聞いたら道筋が立てられるのか分からない状態でいろんな人の力を借りて準備をした」と振り返りました。しかし、これを乗り越え、課題を見つけることで、次に繋げたといいます。
スポーツ栄養士とJAXAでの役割の違いについて、港屋さんは次のように答えました。「スポーツ選手と飛行士の栄養管理には、いくつか異なる点があります。スポーツ栄養士は勝利や個人記録更新という明確な目標に対して、飛行士はミッション成功といった多様な要素を背負っています。特に飛行士にとっては食事の優先順位がアスリートとは全く違うと感じています。これはとても大きな違いで、私が彼らを支える上でのやりがいでもあり、同時に挑戦でもあります。」
まとめ
今回の取材を通じて、港屋さんのJAXAでの熱心な取り組みを伺うことができ、大変刺激を受けました。私も、まだ誰も手がけていない領域での挑戦や、やりがいを感じるキャリアパスを探求していきたいと思います。
文責:小出大士朗