2020年度大樹航空宇宙実験場の実験計画 ー6月30日JAXA記者会見ー
大樹航空宇宙実験場とは
大樹航空宇宙実験場は、北海道大樹町の大樹町多目的航空公園内に置かれたJAXAの研究拠点です。1997年から航空技術に関する実験が行われ、2008年からは、それまで岩手県大船渡市の三陸大気球観測所で行われていた大気球実験も行われるようになりました。
大気球とは文字通り「大きな気球」のことであり、限りなく宇宙に近い環境に長く留まることができます。また、ロケットや人工衛星に比べて、搭載できる実験機器の大きさなどの条件が厳しくない、実験回数を多く提供できる、コストが安い、などの利点があります。このような利点を活かし、最先端の科学実験が数多く行われてきました。
JAXAといえばロケットや人工衛星、有人宇宙開発、というイメージを持つ方が多いと思いますが、それ以外の科学実験や航空技術に関する実験も行っているのです。
2020年度の実験内容
2020年度は、火星探査用飛行機の飛行試験や気球VLBI実験(※1)など5種類の大気球実験が予定され(※2)、ヘリコプタの安全性向上のための実験や火星衛星探査計画(MMX)搭載のLIDER(レーザ高度計)の性能確認試験など、5種類の航空技術等に関する実験も予定されています。
※1:VLBIとは、電波天文学における観測法の一種。遠く離れた場所にある複数のアンテナを使い、同時に同じ天体を観測する。単一のアンテナを使うよりも鮮明な観測データを得ることができる。
※2:7月14日、既に1種類の大気球実験が実施されました。気球は想定通りに上昇しませんでしたが、気球と搭載機器の回収には成功しました。今後、原因の調査が行われる予定です。
今回TELSTARは、気球VLBI実験に関する質問を行いました。なぜなら、JAXAは「はるか(MUSES-B)」という電波天文衛星を運用した実績があり、既に人工衛星によるVLBI観測技術を持っているからです。
アンテナ展開試験を行う「はるか(MUSES-B)」(Credit: JAXA)
この質問に対し、JAXA宇宙科学研究所の吉田哲也教授からご回答をいただきました。
吉田教授によると、大気球によるVLBI実験には、人工衛星による実験に比べてコストが安く、高頻度で実験ができるという利点があります。
また、アンテナの構造が簡単になる、という利点もあります。人工衛星によるVLBI観測では観測用アンテナを宇宙で展開して大きくするため、複雑な機構が必要です。一方、大気球によるVLBI観測では、大きなアンテナをそのまま大気球に吊るして搭載することができるため、複雑な機構は必要ないのです。
気球VLBIシステム(Credit: JAXA)
最先端科学や航空技術の発展を支える大樹航空宇宙実験場。今後実施される実験に注目です。
文/加治佐匠真